Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。
  • title
    つむじ風と
  • date
    2023年10月08日

私が働いていた、ブラウンブックスカフェ円山店の頃。

古い一軒家や馬頭観音の石碑が佇む、静かな住宅街の一本道のつきあたり。日が落ちると蔦で覆われた白壁に直接貼られた看板の文字が、白熱色の照明にぼやあっと映し出されていました。建物の後ろには大きなマンションがそびえるように立っていましたが、それがまた静けさを際立たせていました。

閉店時間を過ぎ、外の照明を消すともう真っ暗。店内の片付けと売り上げの精算をし、最後にガラスの引き戸を木の扉にはめ替えます。

店じまいと帰る支度を済ますと、たまにこっそり、喫茶兼ブックコーナーである2階に上がってコーヒーの本を読みました。勉強を兼ねて、とかなんとか理由をつけて、なんともワクワクする時間でした。

店長と、当時一緒に働いていた子が本好きで、いろいろな本を教えてくれましたが、その中で今も、ずっと面白いと感じるのが吉田篤弘の「つむじ風食堂の夜」です。

最近見かけたある映画監督の言葉。お気に入りの映画の話をしている中で、

「”お気に入り”という言葉にはさまざまなレベルがあることがわかった。最も感銘を受けた映画、見続けるのが好きな映画、見るたびに学ぶことができる映画、新たな経験ができる映画…。つまりさまざまな”お気に入り”がある」

「つむじ風食堂の夜」は、私にとって「読み続けるのが好きな本」です。なぜか何度読んでも飽きることなく、たまにその文庫本の世界に入り込んで登場人物たちと同じ時間を過ごす、その時間が心地いい。

その食堂が頭に浮かんでくる時、なんとなくブラウンブックスカフェと重なります。古めかしい飴色のテーブル、水の注がれたコップ、漆喰の、何色とも言えない不思議な色をした四方の壁。

つむじ風食堂は十字路の角にあって、ブラウンブックスカフェはつきあたりにあったんですけど、

ー東西南北あちらこちらから風が吹きつのるので、いつでも、つむじ風がひとつ、くるりと廻っていた。ー

そんな一文を読むと、風が、色々なところから来てくれるお客さんのような気がしました。

閉店後に、小さな灯りの下で背中を丸めて本を読んでいる自分の後ろ姿が遠く見えるような気がすると、あの頃、働くという意味がなんとなくわかった頃だったなと思います。

コーヒーのことを好きになるんだ、もっともっとと、楽しくてしょうがなかった。今いる場所が好きなんだ。技術も知識も、お金という対価をもらうにはまったく足りな過ぎた。でもやる気とワクワクだけが、その静かで真っ暗な場所に、煌々と輝いていました。

今子供達にいろんなお仕事をしてもらおうとすると、「おかーさんこれどうやるの」と何度も聞きにくるので、手を止めて飛んでいきます。この期間は任せてることにならない。一人でできるようになって初めて、私も違う仕事ができて効率よく仕事が回るようになるってもんです。

社会で働いていた頃、雇い主はこの瞬間も、成長を信じてお給料を払ってくれていたんだろうな。頑張ってくれている姿、大失敗の姿、正直自分でやった方が早いくらい時間のかかっている様子、明らかにもうやりたくないという表情。でもできるようになるまでのその時間は、極端に言えばサナギのようにとても大事な瞬間で、私も貴重な姿を見ているんだと思う。じっくり待ちたいけど感情的に言ってしまったりして(それは同じことでも、その時のモチベーションにもよるし)寝る前にありがとうとごめんねがぐるぐるすることもよくあります。

黒い背景に小さな星と、タイトルしか書かれていない「つむじ風食堂の夜」の文庫本。

この本を閉じる時はいつも、ブラウンブックスカフェで働き始めた頃の自分と子供たち、そして今の自分と、当時の見守り育ててくれた人たちが浮かんできます。

そして今この時も、つむじ風食堂の物語と、片田舎で育児をしている私と、ブラウンブックスカフェのページはそれぞれ続いています。

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Chihiro Taiami

  • title
    水木しげるのはなし(もうすぐコーヒーの日篇)
  • date
    2023年09月20日

今年の夏は暑かったですね。

とうきび、枝豆、スイカ、キンキンに冷えたアイスコーヒー。味だけでなく、なんだか暑さに比例してずっと記憶に残ります。

夏にひやっと涼しさを運んでくれる妖怪や怖い話。ここ何年か、あの5歳児の出てくる国民的アニメや、おかっぱ頭のあの子のご長寿アニメでもホラー回がやっていて、子供達はワクワクしながら見ています。これまた風物詩と言えるんでしょうか。

そういえば今年の夏休み、水木しげるの幼少期を描いた「のんのんばあとオレ」という実写ドラマのDVDを、子供達と見ました。私が子供の頃、夏休みの一時やっていたドラマなので、レンタルにも置いていなくて取り寄せしたのですが、自分の人生観に影響したものなのでいつか一緒に見たかったのです。

水木しげるの故郷、鳥取県の米子が舞台で、妖怪の話をたくさん聞かせてくれるおばあさんや、アニメーションの楽しい妖怪たちが出てきます。日常を情緒豊かに過ごすしげるですが、今じゃ絶対ないような、隣町のガキ大将と軍団と、石を投げあって喧嘩する場面や、大人のゲンコツもあり、この時代のリアルを感じます。そして一見ひょうひょうとして頼りない、でもしげると同じくらい豊かな情緒を持つお父さんから、大事な時にぽっと出る一言が胸を打つ。

ちなみにこの「のんのんばあとオレ」は、フランスで「漫画界のカンヌ」と言われるアングレーム国際漫画祭で、日本人で初めて最優秀作品賞に選ばれました。世界が認めてくれて嬉しい。

しかし2巻組を2日間返し忘れてしまい、1200円も延滞料金がかかってしまいました。夏の終わりの妖怪のいたずらに、すこし寂しい気がしました。

さて、涼しくなってくると恋しいのがやっぱり温かいコーヒー。きたる10月1日はコーヒーの日です。

日本では涼しくなるこの季節にコーヒーの需要が高まることから、1983年に全日本コーヒー協会が、「コーヒーの日」を制定しました。

また、コーヒー豆の一大産地であるブラジルで9月までに収穫が終わり、10月から新たに栽培が始まることなどから、2014年、国際コーヒー機関でも同じ10月1日が「国際コーヒーの日」と制定されました。

日本、世界ともに10月1日はコーヒーの日です。

毎日飲み続けているコーヒーですが、新年度にあらためて生産してくれる方たちへ感謝をする日にもなりますね。本当に、毎日コーヒーが飲めるってありがたいことです。

水木しげるは若い頃コーヒーが大好きでしたが貧乏で、仕事の打ち合わせで編集者と喫茶店に入ると、どちらがコーヒー代を払うのか考え過ぎて原稿料をもらうのを忘れて帰ったことがあったそうです。

以前、無謀にもブラウンブックの依頼をしよう!しかも原稿料は払えないのでコーヒー豆でお礼します!と熱烈なラブレターのような執筆依頼をしたことがあります。(もちろん)叶いませんでしたが、丁寧なお返事をいただき、その中に「水木は高齢でコーヒーを飲むのをやめました」の一文がありました。

水木しげるが亡くなったニュースを知った時は、ご冥福を祈り、家で半べそかきながらハンドドリップでコーヒーを淹れました。今年のコーヒーの日も、天国で美味しいコーヒーを飲んでいるといいな。

LOVE COFFEE &水木しげる!!!!

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Chihiro Taiami