Brown Pagecoffee column
毎年10月1日コーヒーの日、一冊の本 Brown Bookとして発行する、日々のコーヒーコラム。

カテゴリー: coffee column

  • title
    喫茶店にて
  • date
    2021年07月24日
  • category
    coffee column

喫茶店の多い町に子どものころ住んでいた。小学校に入る前ぐらいから、私は父に連れられてよく喫茶店に行っていた。

母がまだ小さい妹を連れて用事を済ませている時、一緒に車で送ってきた父と私は時間を潰さなくてはならない。そういう時に喫茶店に行っていたのだと思う。当時は本当に昭和だったから、今のカフェと呼ばれるような雰囲気のお店ではなかった。行くのはいつも「昔ながらの喫茶店」だった。

客の多くが中高年男性で、ほとんどの人がタバコを吸っている。その煙の中で私も父と向かいあわせに大人用の椅子に座る。父は新聞を読み、タバコを吸いながらコーヒーを飲む。私はオレンジジュースを注文してもらう。

父は黙ってずっと新聞を読んでいる。私はとても退屈だった。ジュースがなくなると間が持たないのでゆっくり飲む。それから父のコーヒーに付いてきた豆菓子を食べる。ピーナツとか、小さいあられみたいなもの。これも早く食べ終わるとやることがなくなる。だからなるべくゆっくり、時間をかけて食べる。そして灰皿に書いてある英語の文字、マッチの箱の絵なんかを眺めている。壁のポスターやテーブルのヒビの行方を目で追っている。そうやって父が「行くぞ」と言うのを待っていた。

オレンジジュースの中には時々、缶詰の真っ赤なサクランボが入っていることがあった。私はこれが嫌いだった。色はきれいでかわいいけど好きじゃない。毎年、山形の親戚から届く生のサクランボは弾力があってみずみずしくてとてもおいしい。でもシロップに漬けてある缶詰の方は変に柔らかくて甘ったるい。同じ果物だとは思えなかった。それでも「サクランボが入っていてよかったねえ」とウェイトレスさんに言われたことがあったから、残してはいけないと思って最後には食べた。顔には出さないようにしていたが、かなり嫌だった。でも、みんなはこれを喜んで食べるんだなあ、じゃあ私も本当は喜んで食べた方がいいんだろうなあ、などと思いながら我慢して食べていた。

大人になってから気がつく。あんなに無理してまで食べなくてよかった。当時は「残す」なんてことは私には想像もつかなかったから仕方がない。食べ物のしつけには厳しめの家だったけど、舌が真っ赤になるような当時のあのサクランボだけは残しても怒られなかったかもしれない。

-3-

  • title
    Kids in the park
  • date
    2021年07月14日
  • category
    coffee column

夕方の公園に響く子供達の声。

虫取りに熱中し、クマバチを虫カゴの中で溺れさせている子。泥水をぶちこみ、まだ死なないと言って、ゴミ箱から拾ってきたペットボトルに移し、フタをして遊具に叩きつける。

ポテトチップスの空き袋に水をためて何やらやっている子もいる。覗いてみると、たくさんアリを入れ、やはり溺れさせている。

バッタの足をもいでアリに食わせる子もいる。

以前、父に言われた言葉を思い出す。「子供が虫を殺してても途中でやめさせないこと」

確か「やってやって、自分で可哀想だなって気付かないと、ほんとの気持ちがわからないから」という理由だった気がする。それが合っているのかはわからないけど、今のところ口出しはしていない。

私は見てて可哀想だなと思う。でも、蚊とかゴキブリは殺していいのに、ハチやアリはダメだという理由も分からない。それに、なぜかイモムシとかかたつむりは絶対に殺さないで可愛がっている。

ともかく、水と虫は、子供たちの顔をいつも輝かせる。


次は鬼ごっこ。幼稚園児ばかりオニにして、近づくとずるい顔してタイムをする小学生。幼稚園児は必死でお兄ちゃんとその友達を追いかける。悔しそうに、でも足は小学生より遅いから、ただただいっしょうけんめい。

ブルーハーツの歌が耳に流れてくるような気がする。

答えはきっと奥の方 心のずっと奥の方


そのうちにあまりにも捕まえられないので俺にタッチしろ、変わってやる!という子が現れる。

息子の友達が走ってきて、私のリュックの中を、何かお菓子ないのとまさぐる。中から缶を見つけ、

「ジュースだ!飲みたい!」

「ブラックコーヒーだよ。苦いけどいい?」

「いい、いい!」

他の子も駆けてきて、

「俺もコーヒー飲める!家で青い缶のやつ飲んでる」

などと言いみんなで缶を開けキャッキャと回し始める。

最初に飲んだ子はブェ〜〜〜〜と水飲み場に吐きに行った。

2番目に飲んだ子は、青い缶を家で飲んでるという強者、腕にイモムシを這わせて余裕の飲みっぷり。

3番目に飲んだ息子は、一口飲んでは拾ったプリングルスの容器に吐き、飲んでは吐き、とうがいのような謎の動作を繰り返していた。


今度はみんなで走って木登りに行った。幼稚園児も後ろから必死について行く。木の上の葉っぱに虫コブを見つけて「きもちわりー!」と興奮している。


こんなに眩しいコーヒーと、時間にはこの先出会えないだろうなと思った。大人になったって、さっきみんなが水飲み場を噴射させたようなキラキラは消えないよ。

全身で笑って、全身で泣いて、力いっぱいこの時間を過ごしてほしい。

帰り道、幼稚園児はもっと遊びたかったー、といった。

鬼ごっこでタイムばかりしてた小学生は、小さな女の子の三輪車を押してくれた。

私は、早く帰って飲み損ねたコーヒーを飲みたいと思っていた。

家では、生きてる虫も死んでる虫も色々入った虫カゴが、帰りを待っているね。

みんなが大人になってほんとうにコーヒーを飲む時、今日のこの光景を見せてあげたい。

ーある母ちゃんのコーヒー記

-2-