コーヒーコラム "Brown Page"
コーヒーにまつわる日々のコラム、"Brown Page"(ブラウンページ)。
毎年10月1日コーヒーの日には、一冊の茶色い本、"Brown Book"(ブラウンブック)として発行しています。

カテゴリー: coffee column

  • title
    コーヒーと恋愛
  • date
    2022年05月16日
  • category
    coffee column

面白くないわけがない。

昭和の人気作家、獅子文六が描く、男と女とコーヒーをめぐる小説「コーヒーと恋愛」。

深夜のスマホの中から、白いカップに入ったコーヒーのイラストが、表紙の真ん中で誘っています。

amazonのボタンををポチッと押して半月経ったけどなかなか手元に届かない。販売元に連絡をすると、追跡がないのでわからず届かないこともあるかも、返金するのでもし届いたらそのまま受け取ってくださいとのことでしばらく忘れていました。

さらに一ヶ月くらいして、郵便受けの下の折り畳んだ傘の隙間に、黒いビニール袋に包まれた四角いものがぽとりと落ちているのを発見。君はどんな旅路を辿ってきたんだい。

ともかくやっと会えました。

ーお茶の間の人気女優 坂井モエ子43歳はコーヒーを淹れさせればピカイチ。そのコーヒーが縁で演劇に情熱を注ぐベンちゃんと仲睦まじい生活が続くはずが、突然”生活革命”を宣言し若い女優の元へ去ってしまう。ー

(裏面 内容紹介より)

時代はまだテレビが新しかった時代。最初は入り込めるかなと思ったけど・・・これがまあ面白い。

こぽこぽ、まったり、カウンターでの思い出が、なんてふわっとしたコーヒー描写ではなく、豆の種類、当時のコーヒー事情、さらにネル、トルコ式、野外での山賊式(パーコレーターのようなもの?)などの淹れ方、インスタントの時代背景までかなり細かく描いてあるのです。

そして、適当だけど天性にコーヒーを淹れるのがうまい主人公モエ子。コーヒーの味に敏感なヒモの男。茶道ならぬ可否道を目指すコーヒーにのめり込んだ初老の男。それを取り巻く大学教授や落語家、芸術家のこれまたコーヒーにうるさいガヤたち。

日常に起こる些細な大事件に、力強く軽妙に進んでいく主人公やどこか憎めない登場人物たち。

可否道の集まりでうんちくを語る連中に、一人がこっそりインスタントで淹れ、うまいと言わせるところなんかとっても好きな場面です。

人生大切なのはユーモアとコーヒー。

そこそこ長いこの小説を読み終わり、面白さと達成感に浸っていると、あとがきで獅子文六が、好きで飲んでいたコーヒーを小説の題材にした(当時新聞小説として一日の休みもなく書いていた)ことで、にわか勉強のため有名コーヒー店やコーヒー問屋に通いコーヒーを飲みまくったこと、自宅でも濃いのを淹れて飲んでいたら胃の調子がおかしくなり、特に後半は病苦と戦い苦労したことが書いてありました。

そうでしょう。面白いだけでなくこれだけ詳しくコーヒーの内容に触れ、かつそれをいやらしくなく、コーヒーが好きな少々凝りすぎな人たちの日常や会話の中でさらりと描く。プロですね。

あとがきの最後の一行。

「それにしても、コーヒー小説だけは、もうコリた。」

本文通して全ページの中で一番笑いました。

文六先生お疲れ様でした。

みんながこの本を笑って、コーヒーを楽しみながら読むことが、きっと天国の作家へのなによりのブレイクになることでしょう。

「コーヒーと恋愛」獅子文六

-28-

chai

  • title
    「飯尾和樹のずん喫茶」にて
  • date
    2022年04月19日
  • category
    coffee column

例えば偶然入ったお店があまりにも自分の感性にぴったりだった時。いやもう入る前から、すでに佇まいや気配から好みだ・・・!と気づいてしまって興奮を抑えられないなんてこと、あると思います。

その気持ちを、その興奮を、見事再現してしまったのが「飯尾和樹のずん喫茶」という番組です。

喫茶店が大好きだという「ずん」の飯尾和樹が東京の純喫茶巡りをするという番組なんでございますが(すみませんすっかり気持ちは飯尾です)マスターやママとおしゃべりしたり、おすすめのメニューを食べて喫茶店の時間を過ごします。

わかりやすい駅や名所からスタートし、だんだん路地裏などに入っていってお店を探すわくわく感は、まるで自身が純喫茶巡りをしている気持ちに。たどり着いた店の独特な看板を見た時のときめきと言ったらもうありません。

店に入ると大体マスターやママは御年五十代から七十代くらい。

とある海系の名前の店では飯尾が「船長いますか」とお店に入ると「私です」とマスターが現れる。その後ろにママを見つけ、「あ、じゃあこちらの方は人魚かな」という。

別のヨーロピアン調のお店では、壁に並んだ中世の女性たちの絵画を見ながら、どの女性が好みかをマスターと語り合う。

また別の店の入り口では「あっ食品サンプルなのにラップがしてあるのはなぜだろう」

シングルオリジンのコーヒー豆の並んだメニュー表を見て、「わーサッカーの強い国ばっかりだ」

店の生い立ち、お店を始めたきっかけ、こだわりのポイントなどをおしゃべりするのですが、寡黙なマスター、よくしゃべるマスター、オタクっぽいマスター、前髪をビシッと固めたママ、小さい頃から遊びに来ていた孫が店を手伝っている、などさまざま。

注文前に映し出される味のあるメニュー表を眺めるのも来店している気分になります。

店名も、メニューも、窓も、椅子も、その店によって個性がある。いや個性しかない。

純喫茶は、攻めではなく懐。例えるならポケットの中のマッチや、小銭や、ガムの包み紙、そのバラエティの豊かさが勝負。

純喫茶は、お店とお客さんに気持ちのいい距離感があって、思い立った時にいつでも足を運ベる、約束のいらない友人のよう。シュールで優しい飯尾ワールドは、そんな喫茶店のあり方そのものを映し出します。

フタに花占いのついたコーヒーフレッシュ。

”新しい恋の予感、素直に飛び込んで”

飯尾がそれを見て「今これやったら私人生終わりますね」と言う。

私、もう喫茶店と飯尾に恋してます。

「飯尾和樹のずん喫茶」

-27-

chai