Coffee Column
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。
  • title
    ザガズー じんせいってびっくりつづき
  • date
    2022.11.20

この本を読みながらコーヒーをのみたい!と久々に思いました。

「ザガズー」という絵本です。

イギリスの児童文学作家、クェンティン・ブレイク作、翻訳は谷川俊太郎。

あるところにしあわせなふたりがいました。そのふたりのもとに、ある日こづつみが届きます。中を開けてみると、入っていたのは「ザガズー」と名札のついた、ちっちゃなピンク色のいきもの。

ふたりはそれをほうりっこして素晴らしい毎日をすごします。

でも、そのピンク色のいきものは成長するにしたがってさまざまなものに姿を変えていきます。例えばはげたか、ぞう、イボイノシシに、りゅう。ふたりはどうしたらいいのか困ったり、掃除道具を持ってあとを追いかけたり。

素敵な絵と、簡潔でテンポのよいおしゃれな文章。

そして最高のオチ!

こんな豊かでユーモア溢れる目で人生を捉えることができたら、小さなことにくよくよせず、些細なことにも楽しみをみつけれられるでしょう。時間の流れの中で、強いものが弱くなり、弱いものが強くなっていく。あるものは成長し、あるものは老いていく。助けているつもりが、いつのまにか助けられている。長い目でみると平等で、シーソーのように、もちつもたれつ、順番こ。

谷川俊太郎のまえがきを少し引用します。

「大人は自分のうちにひそむ子どもを、ともすれば忘れがちです。うちなる子どもを認めるのがこわいからです。まだ人間になりきれない、不思議な生きもの、そこにこそ子どもの成長のエネルギーがひそんでいるのではないでしょうか。

ー中略ー

大人は老いるにつれて子どもに戻っていきます。今度は大人になった子どもが、子どもに戻った大人とともに生きていくのです。それがまた新しい苦労(と喜び)の始まりだということも、ブレイクは暗示しています」

気持ちを切り替えてちょっと違う角度からものごとをみたい時。頭がふわっと軽くなって、少し上空から時間をみわたせるような、そんな一冊です。

コーヒーをお供にぜひどうぞ!

「ザガズー じんせいってびっくりつづき」

クェンティンブレイク・作 谷川俊太郎・訳

好学社

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Taiami

  • title
    コーヒーの効果
  • date
    2022.11.13

遠くアラビアの地で、くすりとして飲まれていたコーヒー。長い時を経て日本に届いてからも、明治の頃までくすりとして飲まれていました。

そのはじまりだけあって、現在もさまざまな健康の効果が期待されています。さてその効果とは?

ひとつめは、コーヒーに含まれるクロロゲン酸。ポリフェノールの一種であるこの成分は、植物が作り出す抗酸化物質で、ワインや緑茶、チョコレートのカカオにも含まれます。

コーヒーの褐色や苦味、香りの元となるこの成分には、抗酸化作用があり、体の中で老化やシミ、シワの原因となる活性酸素を減らすという、アンチエイジング効果があります。がんや糖尿病などの予防にも効果的です。

ふたつめは、コーヒーといえばのカフェイン。カフェインには興奮作用があります。集中力を高めたい時やスッキリしたい時に効果があります。

夜飲むと眠れなくなってしまうのもこのためですが、反対に、コーヒーの香りにはリラックス効果もあり、特にブルーマウンテンやグアテマラなどは、リラックス時に出るアルファ波が増えるそうです。

血管を広げたり、血のめぐりをスムーズにし、疲れを取る作用もあります。

コーヒーとか、タバコとか、嗜好品を欲するのは自分の体調のバロメーターにもなると思います。風邪をひいている時は飲みたいと思わないとか、「コーヒー飲みたくなってきた!体調戻ってきたな」というように。

アンチエイジング、集中力、疲れをとるなど現代人には嬉しい効果がたくさんのコーヒー。

そんなことを頭の片隅に、美味しく楽しく飲んでいただけると嬉しいです。

あれ、いつもそばにいて気づかなかったけどそんなことしてくれてたのと、一声かけてやってください。あ、コーヒーのことです。

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taiami

  • title
    自家製レモネード
  • date
    2022.11.03

    

都会的で、きらきらで、最高におしゃれ。

煮詰められた、甘酸っぱい柑子色のシロップをひとすくい。そ〜っと水を注ぐと二層に分かれて、グラスの向こうが透けて見える。

きらきらとした都会的なものに惹かれてしまうのは、海と山しかないような、ちいさな田舎町で育ったからか。遠く離れた母にもいつか飲ませてあげたいな、なんて思えば、陽に当たって透けたグラスの向こうに、母とのちいさなおもいでが、ぼうっと映る。

遠い昔の3月、絨毯もない冷え切った真新しいワンルームで、2人で過ごした3日間のこと。

      

古びた地元の駅から、約300キロの道のり。JRの窓から見える建物が、どんどん高くなっていく。お尻が痛くなってきた頃に届く、「まもなく、終点、さっぽろ」のアナウンス。高校を卒業したら、絶対に都会に住むのだと決めていたのだ。心が躍って、思わず前のめりになる。

3月末、小さなワンルームの中は、ひんやりと冷え切っていた。2枚重ねた靴下に伝わる、フローリングのごつごつとした無機質な冷たさ。寒くて、殺風景で、生活感のない、真新しいにおいがする部屋。これから、可愛いピンク色のカーテンと、ふわふわのラグが届くのだ。わくわくする私を見て、「いいなぁ、お母さんもここに住みたい。」と母は羨ましそうに呟いていた。

2日目、家の近くにおしゃれなパン屋さんを見つけた。お金に厳しい母が、珍しくたくさん買ってくれた。見たことも聞いたこともない、カタカナのおしゃれなパンばかり。何から食べようかと、何もない部屋にパンを並べた。「都会には色んなものがあるから、お母さんが出来なかったこと、これからたくさん経験できるよ。」と、また羨ましそうに言っていた。そんなに羨ましいなら、お母さんもこっちに住めばいいのに。と言うと、少し困った顔をしていた。きっと、すこしだけ寂しかった。母も、私も。

    

3日目、母が乗るJRの時間まで、2人で街を歩いた。憧れていた「4プラ」も「PARCO」も、綺麗な店員さんばかりでドキドキして、結局何も買えなかった。母と2人、時間を持て余し、改札の目の前のベンチに座る。

ありがとうもごめんなさいも、言いたいことは沢山あったのに、照れ臭さと、泣いてたまるかという意地がジャマをして、初対面かのような上っ面の会話しかできなかった。母も同じだったのか、案内のアナウンスが流れるとすぐに立ち上がった。そうして、まるで明日また会うかのように、「またね」と手を振って母を見送った。

私と母の、18年間の暮らしが終わった日。離れていく母の背中を、人混みに溶けて見失うまでずっと見ていた。母は、結局一度も振り返らなかった。

    

誰もいない家に帰ると、無性に寂しくなった。まだ何一つ汚れがない綺麗なキッチンには、昨日、母が買ってくれた名前もわからぬパンが、いくつか残っている。私はこれからいつでも食べられるんだから、母にあげればよかった。つめたいフローリングに座ってひとりでパンを食べながら、小さな田舎町での日々を思い出して、わんわんと泣いた。

   

あの日から、気づけばあまりにも長い月日が経った。好きも嫌いも、楽しいもつらいも、両手いっぱい、溢れるくらいの経験をして、気づけば細い階段に行き着いていた。18歳の頃より、少し逞しくなってしまった身体で今日も階段を登り、きらきらと輝くレモネードを作っている。

いつか母がこの階段を登る日が来たら、陽の当たる窓際の席で、向かい合ってレモネードを飲むのだ。そうして、この街で経験した両手から溢れ出るおもいで話を、ひとつずつ、ゆっくり話そう。

忘れたいほどのお酒での大失敗も、今じゃ笑えるひどい恋愛話も、真新しいワンルームであなたを想って一人で泣いた日のことも、遠い遠い小さな田舎町に住む母は、きっと知らないだろうから。

BBC staff 渋川

  • title
    パセオ
  • date
    2022.10.28

 コロナで始まり、コロナで終わる、そんなパセオでの営業でした。

 遡ること2019年11月。台湾買付の商品を山盛りに用意して挑んだパセオでのポップアップショップ。その後2月には店主、急遽アメリカへと買付へ。今思えばコロナ禍の忍び寄る中、この2月に買付に行けたことは本当にラッキーでした。店主の強運に感謝です。そして2020年3月3日、パセオでの本格的な営業を開始しました。
 しかし待ち受けていたのはオープン翌日からの時短営業。そして1ヶ月半にも及ぶ全館休業。
 前代未聞の事態に、このままでは廃業する!とパニックになり店主も私も泣きました。あの時、やれることをやるしかないと不安の中でも前を向いたのは私たちだけではなかったと思うのです。社会全体で不安真っ只中の状況。それでも私たちのことを応援してくれた多くのお客様の存在に救われました。

 営業再開の後も時短営業と休業を繰り返しながら、ひと気の少ない街の中で、かつて日常だった札駅の人通りの賑やかさを思い返したりなどしました。そして1年、2年。ゆっくりゆっくりと、街が息を吹き返していくようでした。

 私の話を少しだけ。

 3月、パセオでの営業が開始。そこから私の店長としての毎日が始まりました。初めて店長という肩書をいただいて、パセオを二年半過ごしました。開店当初からパセオは「店主星川のお店」というのが私の中でひとつ大きな芯としてあって、正直、最初の頃は「店長」なんて呼ばれることにも違和感ばかり。「新人佐藤です~!」なんて言っていた日々はついこないだのことと思っていたというのに! 特に開店してまもなくは周りのスタッフがみんな、自分よりはるかに人生経験豊富な方ばかりということも、その違和感を後押ししていたんだと思います。それがスタッフに、お客様に、「店長」と呼ばれているうちに、次第に、自信を持って返事が出来るようになっていきました。それから、がむしゃらに気がつけば二年半。

 ある日、多忙の星川さんが久しぶりにパセオを訪れて言いました。
「いいお店!店長のお店ですよ!すごいじゃないですか!こんなお店、他にないですよ!」
 いつのまにか、このお店が本当に私の居場所になっていました。走馬灯のように、お客様のお顔だったり、スタッフの顔、お嫁に旅立っていった雑貨たちが思い起こされました。
 とはいえ、がむしゃらにやっていく中で、正直しんどすぎて投げ出したくなることもあったけれど、その度に前を向きなおせたのは、やっぱりお客様の「また来ます」の言葉と笑顔が日々あったからでした。


 2022年9月30日、パセオ閉館。ブラウンブックス&ヴィンテージは、パセオでの営業を終えました。

 雑貨に目をきらきらさせて店内を歩くお客様。お客様と雑貨への愛を語り合うのが楽しくて、どっちのイヤリングの方が似合うだなんて真剣ににらめっこしたり、道行く人に驚かれながら大きな家具をお客様と協力してお車まで運んだり。語りきれないほど本当にたくさんの思い出が詰まったパセオでの二年半でした。

 「いいお店」だと言うなら、お客様やスタッフみんな、関わっていただいた全ての方のおかげでした。こんな素敵なお店で店長をやらせていただいた時間は私の一生の宝物です。本当に、ありがとうございました。

 さぁ、パセオを出たブラウンブックス&ヴィンテージ。まだまだ止まりません。

 またお会いしましょう。

 

パセオ店店長佐藤、あらため後藤

※「移転の挨拶」に加筆修正を加えBrown Page版にしました

  • title
    珈琲道中
  • date
    2022.10.19

或る人問ふ。珈琲道中とは何ぞや。答へて曰く、何でもなし、唯の珈琲好きの膝栗毛なり。

ぺペンペンペンペーン

珈琲が好きで知り合った友人がいます。

北の街、違う喫茶店で働いていた二人。縁あって知り合い、その後偶然、同じ時期に南の方へ移住。それから私はまた地元に戻ったけれど、彼女は今もその土地で生活を続けています。

同じ日本とはいえ、スコールもあれば椰子の木も生えている。地名、方言、微妙なイントネーション、スーパー、朝の情報番組、新鮮なことばっかり。

「珈琲が好き」「B型」という共通点はあれど、仲良くなってそんなに時間も経っていない。そんな私たちが初めての土地でした珈琲をめぐる珍道中は、本当に楽しいものでした。

列車で喫茶店に行くにも「薬院てなんて読むの?」「それよりそこに大きい神社があるから寄って行こう」

知らないものばっかり、面白いものばっかり。目についたところはどこでも立ち寄ってみました。

もう一つの共通点は「直感で生きる」

興味のあるものを見つけると動かずにはいられない。逆に計画を立てるとあんまり上手くいかない。でも上手くいかないのもそれはそれでまた面白い。

全然知らない街の市場にある珈琲屋さん。魚の匂いを通り抜けてたどり着きました。もうそのシチュエーションだけで最高でした。マグカップになみなみ注がれた珈琲の味も最高。

大きなお濠のぐるり、運動コースの向かいにあるスターバックス。マラソンをする人、ベビーカーを押す人、部活動の生徒達。珈琲の香りと自然がいっぱい、こんな環境で部活できるってどゆことよって見てるこっちが勝手にいい気分。

珈琲のレジェンドのお店では興奮を抑えきれず、小さな声で熱く語り合いました。

うさぎカフェを探して歩いていただけなのに、スラム街のようなところに迷い込んだこともありました。

自分たちがどこにいるのか、場所も時間もわからない感覚になったこともありました。

小さなアパートで長ネギを切って鍋をしました。「え、緑の部分って入れていい?」そんなどうってことない会話。そのあと、彼女が珈琲を淹れてくれた手つきと真剣な表情は今も思い出せます。

二人は生きる感覚が似てる。

住む場所が違っても、頻繁に連絡を取らなくても、これから先の道、どこかでまた一緒に何かをする。

多分人に頑張っているとか言われるのはあまり好きじゃないその子は、自分のペースで、納得のいくやり方で日々を過ごしている。

今、自分たちは人生のどのへんにいるのやら、何をしているのやら。弥次さん喜多さん珈琲道中。

あの日寄った神社では「これからも一緒にたくさん珈琲の旅ができますように」と絵馬を書きました。

また会う日まで、お互いのどんな一日にも、珈琲が味方でいてくれるでしょう。

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taiami