Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。

年: 2023年

  • title
    冬の使者
  • date
    2023年11月20日

寒くなって室内で過ごすことが増えると、コーヒーを飲む量が一気に増えた。

ドリップでは追いつかず、キッチンに置いてあるインスタントコーヒーの瓶を大きなものに替えた。暇さえあればバッサバッサとカップに粉を入れまくっている。瓶の中身が減ってくると、ストックを買うまで焦りすら感じて、完全にインスタントコーヒー中毒だ。

頻度はインスタントコーヒーほどではないけど、豆を挽いて飲むコーヒーはやっぱり格別。外出して帰ってきた後も、残っていた香りが玄関まで漂ってきて幸せな気持ちになる。

向かいに住む兄弟が、お父さんが車のタイヤを替える姿を見ている。お兄ちゃんはこの前まで小学生だと思ってたのに、あっという間に高校生だ。弟もずいぶんたくましくなった。

そんな様子を、カップのコーヒーを混ぜながら窓からチラ見している。

秋の終わりと冬の始まりは、不思議なふわふわが飛ぶ。

雪虫。ケサランパサラン。

雪虫って、もう冬を告げるものとしてこれ以上のものはないんじゃないだろうか。お尻にあんな可愛い青と白のふわふわをくっつけて、雪の降る直前に現れるなんて。

幼い頃の自分を含め、子供はみんな雪虫をつかまえる。メイがまっくろくろすけを手のひらでパチンとつかまえるみたいに。

それからケサランパサラン。

ケサランパサランは、妖怪、または幸運をもたらすと言われている謎の物体で、江戸時代には桐の箱の中でおしろいを与えながら飼ったりしたそうだ。直径4〜5cmくらいの、うさぎのしっぽのような白いふわふわ。

でも実は、私が見かけるのは真ん中に、雫型の種子が付いている。大きいたんぽぽの綿毛みたい。だからきっと何かの植物の種子で、本当はケサランパサランじゃないけど、私はこれを見かけるのが好きで、妖怪も好きだし、勝手にこう呼ばせてもらっている。

以前、朝の雪かきのあとのコーヒー最高!そんな投書を新聞で読み、冬が近づいて来るたびに思い出す。

秋からじわじわ需要が高まってくるコーヒーだけど、その湯気や香りに、愛情まで感じてしまうのは冬だろう。

もうそろそろそんな季節を、冬の使者たちと一緒に心待ちにしている。

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Chihiro Taiami 

  • title
    セールスは人間の売り込みである
  • date
    2023年11月13日

このタイトルは、BBCで働いていたころ、お客さんがくれた言葉で、当時のショップカードに走りがきして今も私の財布に入っています。

人が何かに感動したり胸を打たれたりするのはなぜなんだろう。

この前、息子のピアノの発表会があり、あらためてそんなことを考えました。出番の時は緊張しながらも、他の出演者たちの演奏にもとても胸を打たれ、いい時間を過ごしたからです。

可愛らしい衣装に身を包み、はにかんで演奏をする小さな女の子。つっかえながらもマイペースに、弾き終わり堂々と礼をするおじいさん。迫力のある素晴らしい演奏をする青年や先生たち。弾き始める前の空気とか、ピンと糸が張ったような集中力とか。

小さい頃に私もピアノを習っていて、嫌いな練習をしたりしなかったりしていたけど、おかげで一つためになったのは、目の前の演奏をするその人が、どれだけ集中して練習してきたかがわかることです。

表現にも色々な形がある。それは演奏だったり、言葉だったり、文章だったり、仕事だったり、生きざまだったり。コーヒーを一杯淹れることも、だと思います。

だけどそれは表現する手段っていうだけで、やっぱり人の心を動かすのは、その人が表現する前に、日々、作り上げている世界。築いているもの、築きたいと心に強く描いているもの。そういうものは、知らずに表れて、生きている年数も関係なく、動物や植物にも、感動することもあるんじゃないでしょうか。

今年の夏に死んでしまった実家の猫は、死ぬ間際まで生きるという姿を見せてくれました。ものも言わないけれど、胸を打たれ、教えられたことが多かったです。それは姿で、言葉にすると正直、陳腐になってしまいそう。だからうまく言えないけれど、私が生きていく時間の要所要所で、きっとあの姿を思い出すでしょう。

その猫の姿に、もしかして言葉なんかいらないんじゃないか、何かを伝えようとすると、ちょっと変わってしまうんじゃないか、と思いました。

そこで冒頭のお客さんの登場です。

その名はやまさん。蕎麦売りのおじいちゃん。よく、ヨレヨレのつなぎにキャップをかぶって補聴器つけて、フラフラとBBCの前のじゃり道を自転車こいで、何にもしてないのにハーッハッハッ!と笑いながら登場しました。

春には四葉のクローバーをたくさん手帳に挟んで持ってきてくれました。

そんな山さんの言葉

「セールスは人間の売り込みである」

「商売はモノを売るんじゃない。人はモノだけを買うんじゃなくて、”その人”だから買うんだ。お客さんとよくよく話をしてると、例えばこんな音楽が好きだとかこんな本を読んでいるとか、どんなことを感じているとか、そういったことが自然と伝わる。売る人の人間性から、お客さんはモノを買ってくれるんだ。」

もう真顔が笑顔みたいないつもくしゃっとした顔のやまさんの、一瞬目の奥が光ったあのドヤ顔を私は忘れません。

やまさんはそうやって、一度断られたところでも何度も通って世間話なんかをして仲良くなり、お客さんがついてくれたんだそうです。

自分の好きなものや楽しみが、今でも何年後かでも、じわじわっと誰かの感動になっていけたらすごいことだなぁ。そしてそうやって人から滲み出るものも感じられるように、柔らかい感性を磨いていけたらいいなと思う。

今、これを書きながら外はチラチラ雪が降ってきて、雪の中も自転車できてくれていたやまさんの姿を懐かしく思い出しました。

ハーッハッハッ!

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Chihiro Taiami