Coffee Column
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。

カテゴリー: coffee column

  • title
    コーヒーのいらなかった時間
  • date
    2024.02.21

コーヒーを飲むずっと前から一緒にいた友人たち。

部活の帰りにバナナを食べていたのを見られて先生に怒られて、その次の日は大声でSMAPを歌っていたら先輩に近所迷惑だと怒られた。

学校から家まで遠くて、なにがそんなに面白かったのかわからないけど、笑い転げて立てなくなって、帰りはさらに遅くなった。最後の二人になるとちょっと秘密の話になり、分かれ道で一時間以上語り合ったこともあった。

地元の神社の秋祭りでは、こぞってチキンステーキの屋台に列んだ。変なポーズで「写ルンです」という使い捨てカメラで写真を撮った。私を含め、そのうち何人かはオーバーオールを着ている。

家に集まって好きな曲をかけ、ただ寝ている人がいたり、マンガを読んだり。帰るまでほとんど会話もしないで、思い思いに過ごした空間は心地がよかった。

自転車の荷台に立ち乗りをして、集団で床屋に髪を切りに行った。床屋のおばちゃんにしてみたら、わいわいがやがや、保育園児のようだったと思う。

ナントカ流星群の夜には、みんなで晩ごはんを作り、分量無視で水を入れすぎた薄いカレーができた。夜中に屋根の上で見た流れ星は綺麗だった。つま先をめちゃめちゃ蚊にやられた。

けんかはたまにしたけど、仲間外れや、グループ内が真っ二つに分かれるようなことがほとんどなかったのは、お互い性格も好きなものも違いすぎて、その違うということを大事にしていたからだと思う。ゆるっとしているようで、人のテリトリーまで立ち入りすぎないような、そんな人たちだった。

住む場所もはなれて、最近はなかなか会えていない。それでもつかずはなれず、何十年もやってきたから、今は大きな流れの中のそういう時期なんだと思っている。

心も体も一緒に成長した日々は愛おしい。ダサいこともたくさんしたけど楽しかった。恋もしていたけど、私の成長に必要だったのはこの友人たちだろう。

歳を取ったら、みんなで一緒に老人ホームに入ろうと約束した。そのためのブタの貯金箱はどこへ行ったかな。いや、ふざけ半分に探し回って、結局買わなかったんだっけ。

またいつか集まったら、コーヒーなんか飲まなくていいから、近況なんて話さなくていいから、ファンタを飲んでポテチのカスをまき散らして、だらっとした時間を一緒に過ごしたい。

はなれていても、おばあちゃんになるまで、一緒に歳を重ねたい。

-62-

Chihiro Taiami

  • title
    なにげない言葉たち
  • date
    2024.01.19

人はいろんな言葉に出会う。

愛犬がたった六歳で旅立ってしまったのは、高校生の時だった。

亡骸を抱いて、父は「ああすればよかった、こうすればよかったって思うこといっぱいあるしょ。そういうことってこれからもあるんだから。今の気持ち忘れるんでない。」と大泣きしながら函館訛りで言った。

子犬の時は可愛がっていたが、大きくなると面倒くさがってあまり散歩にも行かず、十分に愛情を伝えることもしなかった後悔はもうどうにもならない。でも、大事なものがそばにいるのは当たり前のことじゃない。犬と父が教えてくれたことは、それから一日たりとも消えていない。

友達と初めてバーに行った時、「何にもわからないんですけどどんなもの頼んだらいいですか」と聞いたら、マスターが「わからないことはこれからもそうやって素直に聞いたらいいよ。知ったかぶりしてる人には教える気なくなるからさ。」とクールに笑った。

バスの中で数分だけ隣り合わせたおばあちゃん。

私の腕の中でぐっすり眠る赤ちゃんを見て「抱っこできていいねぇ。私は、義母がずっと抱いてたから、ほとんど自分の子供を抱けなかったよ」と微笑みながら言った。

歩調を合わせて歩いたり、ぐずって抱っこしたりしながら歩いてきて、やれやれと乗ったバスだった。こうして重い思いをして抱けることは当たり前じゃないんだなと思った。

そして最後は、コーヒーの仕事に出会った時のこと。本気になれる仕事をしたいともがいている最中だった。面接で、普段コーヒーを飲んでいないことを伝えると、店長が

「じゃあまずはコーヒーを好きになってください」

と言った。この言葉は私に魔法をかけた。

「目の前の仕事を好きになる」

今もその魔法は解けていない。コーヒーだけにはとどまらず、どんな世界もそう見えるようになった。

こういう言葉は、かけてくれた人は覚えているんだろうか。多分覚えていないんじゃないかな。どや顔で言われたら、多分そこまで残らない。お互い通り過ぎるようになにげなく言ったり聞いたりしたから、すっと心の奥に届いた気がする。

これからもどんな出会いがあるかわからないけど、そんな言葉たちは、いつでも道の先を照らしてくれる、強くてあたたかな明かりです。

-61-

Chihiro Taiami

  • title
    コーヒー、三六五日
  • date
    2023.12.30

今年もあっという間に残り二日となりました。

三六五日、何杯のコーヒーを飲んだかな?

朝起きてすぐ、ごはんの後、仕事の合間、家に帰ってきた時、ドリップ、インスタント、自分で淹れたコーヒー、人に淹れてもらったコーヒー、お店やコンビニのコーヒー、遠出する時に車の中で飲んだコーヒー。

確実に三六五杯は越えている。

祖父がコーヒーとタバコを愛して、九十歳を過ぎ大往生したように、やはり自分にとってもコーヒーには日々の原動となる力があります。

世界には戦争や災害が起こっている地域やコーヒーどころじゃない人々もいる。そんなニュースを見て「今日も美味しいコーヒーでホッと一息つきましょう』と書くことに違和感を感じることもありました。

自分にできることは、そういう現実を忘れないで、自分も精一杯生きること。どんな環境でも、感動する心を忘れないことなんじゃないか、と思う。

コーヒーはその手助けをしてくれる。

私にとってコーヒーは、めくるめく日々を、心を、リセットしくれる存在です。だからこそ、毎日新たな感情を見つけられる気がする。

あなたにとってコーヒーはどんな存在ですか?

今年も一年つたないコラムを読んでいただき、書かせていただき、本当にありがとうございました!

-60-

Chihiro Taiami

  • title
    ある日の嘘
  • date
    2023.12.20

嘘をつく心理とはどんなものだろう。

脳は嘘をつく時忙しく働いていて、本当のことを言っている時はストレスを感じずに平穏なんだそうだ。

この前子供のおやつを勝手に食べた。チョコレートのパイだ。しかも子供が自分で作った、この世に一つしかない手作り。出来たてを半分子供が食べて、そのあとおばあちゃんの家のクリスマスパーティーに行ったから、ご馳走を食べて楽しさで忘れてしまうだろうと思った。夜に食べた。めちゃめちゃ美味しくて止まらなかった。完食だ。

そしたら朝になって言われた。「昨日のパイは?」

キター

「昨日おばあちゃんちに持ってってそのまま置いてきちゃった」

思ったよりすらすら嘘をついてしまった。

「ふーん、そっかぁ」

朝ごはんの用意をしながらもやもやもや…

食べちゃったーって言えばよかったな。気分悪いな。

そして朝ごはんを食べ終わる頃謝った。「ごめん嘘ついた」その言葉に食卓にいた子供達全員がピクッと反応した。「あんまり美味しくて止まらなくて夜食べちゃった」

作った子が「ふふん。なーんだ。いいよ」と言った。

みんなが家を出た後、片付けをしながら喫茶店で働いていた時のことを思い出した。

一人で店番をしている時、なるべく飲み物とデザートを持っていくタイミングが同じになるように、ギリギリのところまでコーヒーの準備をして、先にケーキのセットをして持っていくと言うやり方をしていた。

その日は「メープルのシフォンケーキ」と言う日替わりケーキで、シフォンケーキの上にたっぷりの生クリーム、そしてその上に線で書いたようなメープルがクネクネとかかっているものだった。

プロデューサー風のおじさんが女性と一緒にやってきて、ケーキセットを頼んだ。いつもの手順でセットをし、先にケーキ、次にコーヒーを持っていった。よし、順調に出せたなとそのまま立ち去ろうとすると、そのおじさんが「あ、ちょっと。このケーキだけどさ、これって上にかかってるのはちみつじゃない?」

頭の中が映画のようにすごい速さで巻き戻されていく。コーヒー、ドリップ、カップ、お湯を沸かす、ケーキの用意、、、はちみつ!!!

はちみつかけちゃったー!

でも私から出た言葉は「あ、いえ、それメープルです…」

「そうお?まぁいいやありがとー」

厨房に戻ってから半端ない後悔、ストレス。完全に保身のためについた嘘。その場で謝ればよかったバカバカバカ

と散々悶えた末、お会計に来たそのおじさんと女性に謝った。「あの、ケーキ、やっぱりはちみつかけてました…本当にスミマセン…」情けない。しかもお会計時という、作り直したケーキを新しく出すこともできない超バッドタイミング。

おじさんは「あーやっぱり?そうでしょ、僕いい舌してるでしょ」と笑いながら、ケーキ代はいらないと言っても払っていってくれた。

嘘を突き通すでもなく、中途半端に変なタイミングで打ち明ける。あれから十年以上経つのに変わってない。

ブルーハーツは歌っている。

チッポケなウソついた夜には

自分がとてもチッポケな奴

ドデカイウソをつきとおすなら

それは本当になる

あの日のプロデューサー風のおじさんも、子供も、告白したら半笑いしながらスルーするような反応だった。小さい嘘をついて、ついてしまったそのストレスから逃れるためだけに白状するという、ちっぽけな自分。

そしたらさらにその次の日の朝、子供がまた「俺の作ったパイは?」とデジャブのように問いかけてきた。

ん?と思いながら「食べちゃったよ。あんまり美味しかったから」というと「えーそうなの」とブー顔。「ごめんね、また一緒に作ろうよ」と言い、学校から帰ってきておやつに作った。

嘘つかないで答えられた方の、パラレルワールドに来たみたいだった。やっぱり百万倍すっきりした気持ちだった。

なぜ二回聞かれたのかは謎だ。

-59-

Chihiro Taiami

  • title
    クリスマスの小説
  • date
    2023.12.15

ショートショートという小説をご存知でしょうか。

小説の中でも特に短いお話で、最後にあっと驚くような意外な結末が用意されているものです。幼い頃から星新一が好きで、あっという間に読めて面白いその形態に魅了されました。

大学では卒業論文で星新一について書き、試験の当日うっかりその論文を持っていくのを忘れて先生たちに呆れられた思い出があります。星新一もびっくりの結末。

この星新一のお話に、クリスマスを題材にしたものがありました。争ってばかりいる人類を見かねた宇宙人が、地球を滅ぼしてしまおうと向かってくるのですが、着いてみると人々はニコニコ、幸せな空気に包まれていました。宇宙人たちは首を傾げながら帰っていきます。なんとその日はクリスマスー。

タイトルは忘れてしまったけど、短い言葉でまとめられた文章と、その話を読んで心に描いたイメージは今もはっきり残っています。

アメリカのO・ヘンリーという作家も、短編やショートショートの名手で、クリスマスの素敵な物語を残しています。

「賢者の贈り物」は、貧しい夫婦が相手へのクリスマスプレゼントを買うために、お互い自分の大切なものを売ってしまい、結果としてどちらも買ったプレゼントが無駄になってしまいます。この夫婦は愚かなのか賢者なのか?

結果はどうあれ、思い合った過程があれば、うまく行っても行かなくても二人で笑えるしハッピー!なクリスマスのお話。

NHKのEテレで「おはなしのくに」と言う番組があり、いろいろな役者さんが朗読と一人芝居をしています。この「賢者の贈り物」を安藤サクラさんがやっているのを観て、胸を打たれました。

寒い冬の夜には温かい小説とコーヒーを。

ふうっと一息つきながら、宇宙人も帰っていってしまうようなコーヒータイムを過ごせますように。

-58-

Chihiro Taiami