「水木しげるの妖怪百鬼夜行展〜お化けたちはこうして生まれた〜」
札幌芸術の森にて6月29日(土)〜8月25日(日)開催。
半月前から家のトイレには、新聞に載っていた展覧会の紹介記事の切り抜きを貼っておいた。子供たちは大入道の絵を見て「これ、妖怪は細かいけど後ろは塗り方が雑だね」などと言いながら、それぞれ十分予習をしたようだ。
訪れた当日の朝。私は四時起き、家族は四時半起き。
前日から用意した荷物のほかに、直前の準備はコーヒーだけ。朝っぱらから全開の電動ミルで粉砕されたコーヒー豆の匂いが、今日のワクワクをすでに象徴している。
今朝コーヒーを落とすのは小学二年生の次男。母が誰かに淹れてもらったコーヒーを飲みたいという理由で、我が家のアルバイトの一つになっている。人はやってもらいたいことにはお金を払いたくなるものだと思う。
むくむく膨らむ新鮮なコーヒーの粉に感動する次男と私。
小さなバリスタの正確な軽量で、最高のコーヒーが入りました。マグボトルに入れ、準備が整った家族たちと車に乗り込む。
夏の朝はもう明るい。それでもやっぱり早朝は空気が澄んでいて気持ちがいい。
道南の片田舎から走ること数時間、芸術の森に着いたのは開場十数分前。気持ちのいい天気の中、会場までゆっくり歩いていくと、子供たちが死んだ虫に群がる赤アリを見つけ観察を始める。すでにたくさんの人が並んでいた。
看板やポスターを前に興奮状態。米子の妖怪ロードで鬼太郎の着ぐるみに会った時のように、奇声をあげそうになるのをグッとこらえた。
会場内に入ってからは、末っ子をガッチリ捕まえながら舐め回すように展示を見る。私にとってはもう別世界に行ったようだった。
しげるが「神田の古書店で古い妖怪の本を見つけた時にはこれだーーーー!!と膝を打った」というパネルの前では、私も膝を打った。
妖怪を描く上で参考にした研究者や画家の展示コーナーもあった。
鳥山石燕、竹原春泉斎、柳田國男、井上円了などの本は私も読んできたが、中でも「おばけ博士」こと井上円了は、妖怪なんていないということを証明するため、逆に全国各地の妖怪を研究したという面白い人。しげるの「否定しつつもなぜかこの人が誰より妖怪のことを知っている」というコメントに愛を感じた。
特にすごいと思ったのは、山や家など生息する場所ごとに妖怪画が展示されたコーナー。
あれは原画だったのだろうか?細かさに感動すると同時に、角度を変えてみると光の加減で筆の運びも見え、しげるが描いているところがイメージできた。それは本で見る整った画とは違って、自分と同じ人間が、真剣に描いているんだという気持ちになった。
ところどころ立体の展示もあった。子供は子泣き爺に顔を近づけすぎて、スタッフに注意されていた。
展示は館内だったが、入る時と出る時、自然と調和した芸術の森に、妖怪たちが喜んでいるようだった。
出口を通り抜ける頃、キャップのつばを後ろに回し、本気で挑んでいた自分に気がついた。
「仕事は決戦、リクツなし」
その使命を見て、
「好きなことだけやりなさい」
しげるの声が聞こえた気がした。
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Chihiro Taiami