喫茶店の扉のカランコロンという音が鳴ってこの本は始まります。
キン・シオタニさんの「コーヒーと旅」
読み終わって喫茶店に行ってきたような気分になったのは、この人は本当に喫茶店が好きなんだろうなと感じたのと、その味わい方が自分と似ていたからかもしれないです。
キン・シオタニさんの喫茶店の好きなところがたくさん書いてあって、読んでいて楽しくなります。
そこで自分にとって、いい喫茶店てどんなところだろうというのを考えてみましたが、パッと浮かんだのが「朝起きて行きたくなるところ」でした。
誰とも約束もしない、前の日から計画もしない、起き抜けに行きたくなるところ。
スマホもカメラも必要ない。体ひとつでフラッと行けるところ。カランコロンと扉を開けて、そこの空気をたっぷり吸い込んで、その空気にはコーヒー(それからゆで卵やナポリタンやトースト)の香りが満ちていて。時間をかけてゆっくり目を覚していくところ。おばあちゃんになって朝にこんな時間を過ごせたらもう生きててよかったなって思うと思います。ああ書いているだけで幸せになってきてしまいました。なんだか銭湯に近い?それともおばあちゃんになってそんな場所を人に提供できたら、それもいいなぁ。すっかり妄想モードですね。
喫茶店やカフェに来る人にとって、コーヒーのうんちくはきっと必要ない。ただコーヒーが美味しくて、あなたの居場所だよっていう席がある。そこで自分の想像力を膨らませたり、必要ないものを削ぎ落としたり、心や体を整えたりして、また自分の手で扉を押して出ていく。
そういう場所を作るのには、お店の人はやっぱりいっぱいコーヒーの勉強をして、気づかれないように気遣いをして、裏できびきび動いているでしょう。
そういえばカランコロンの音は、私の大好きなゲゲゲの鬼太郎の下駄の音でもありました。
「コーヒーと旅」キン・シオタニ
(マドレーヌブックス)
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Taiami