Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。

カテゴリー: coffee column

  • title
    猫のいる風景
  • date
    2021年11月22日

実家の猫はもう二十歳を過ぎ、いい歳であるはずなのに、これまで健康も見た目もマイペースぶりもほとんど変わらずに来ました。なのでこの猫が歳をとるとか、いつか死ぬということをすっかり忘れていました。

今年の夏、突然、てんかんのような発作を起こし、我を忘れたようにぐるぐる回り始めると、腰を抜かしてぐったりしてしまいました。その後も何度か同じような発作を起こし、尻尾を垂れて急に歩き方もふらふらになってしまいました。

ゴミ箱やテーブルの足など家具を頼りによろよろ。方向を変えようとすると上に大きくそってしまい、背中からどんど倒れます。危うく父の碁盤の角に頭をぶつけそうにもなりました。食欲もなく体も細くなり毛が浮いて、これまでできていたトイレも、辿り着けずに床でしてしまうことも増えました。それでも毎日よろよろと歩き続けていました。

病院からもらった薬をあげながら見守る日々が続きましたが、そろそろだめかなという空気が家族中に漂いました。

もう十月も半ばの暑い暑い日。朝に母から電話がきました。娘を抱えて急いで実家に行くと、猫が座布団の上でぐったりしていました。「大往生だな。幸せな猫だったよ」と父が言い、「いつもの日当たりのいいところで丸まってたと思ったら、口ぱっくり開けてたんだよ」と母が言います。目にも生気がなく、本当にか細く息をしているだけという感じでした。しかし、しばらくすると頭を少し持ち上げ、父が手のひらに餌を載せてあげてみると、ぺろぺろと舐めました。

なんとその日を境にみるみる回復していったのです。

ご飯はむしゃむしゃと食べるようになったし、尻尾もピンとたてて歩きます。よろよろしながら歩いていたのは、リハビリだったようです。わずかな段差も上がれなくなっていたのに、知らないうちに階段を上って、二階のお気に入りの窓で昼寝をしていたりします。

かと思うと、少々ボケたように、ご飯を食べたのを忘れて何度も餌皿の前に座るようになったり、朝一緒に寝ている母の布団におねしょをするようになりましたが、自分で生活ができるくらいには戻りました。そうそう、子供の頃よく企てていた外への脱走計画も、また練り直している節が見られます。

父はペット霊園の資料を集めていたそうです。母と末の弟は、残りの餌をどこかにあげようかと相談していたみたいだし、もう一人の弟は仕事の前に必ず寄り、抱きしめていったそうです。知らないうちに夫も会いにいっていました(弟がたまたま休みで昼寝をしていて、その股間に猫も丸まって寝ていたため、あまり触れなかったみたいですが)。

家族の勝手な思いや計画なんてお構いなく、転んでも転んでもひたすら歩き続け、休養をとり、マイペースを貫いていたその猫の姿に、何年か前に亡くなった祖母のことを思い出しました。ホットミルクに浸した食パン、甘酒、砂糖をかけたトマト、小柄で食は細いけど自分の好きなものだけ食べ、健康で超長生きした祖母。人生(猫生)ひっそりマイペース、好きなように、やりたいように!

毎朝父がコーヒーを飲みながら、新聞を読んだり日記を書いたりしていると、何食わぬ顔でその上にのってくる猫。抱っこしてくれるまで動きません。

拾ってきたので正確な年齢はわからないけれど、家に来てからの歳を考えても、二十歳ということは人間にしたらもう百歳近く。猫またになってもおかしくありません。

「妖怪になってもいいからもう少し一緒にいてほしい」。そう言ったのは弟ですが、家族みんなが弟と同じ気持ちで過ごした夏でした。朝のコーヒーの香りと、日のあたる暖かいソファの上で猫が丸くなっているあの風景は、かけがえのない日常です。

-14-

chai

 

  • title
    カフェインの歴史と効能、あれこれ
  • date
    2021年11月12日

コーヒーの代名詞とも言えるカフェイン。

カフェインは、植物に含まれる「アルカロイド」という苦み成分の一つです。

一八二〇年ごろ、ドイツの化学者ルンゲがコーヒー豆から取り出したことから、カフェという言葉を含むこの名前になりました。数年後には他の学者がお茶から同じ物質を取り出し、お茶由来であることからテインと名付けられましたが、のちにカフェインに統一されます。

もしルンゲがコーヒー豆から発見するのが少しでも遅かったら、カフェインという言葉は消え、テインの方になっていたかも!?

またルンゲにコーヒーの研究をすすめたのは、文豪ゲーテだったという逸話もあり、彼も大のコーヒー好きだったそうです。

カフェインには興奮作用があり、夜に飲むと眠れなくなるという人がいるのもこのためです。コーヒーの他にも前述したお茶(玉露、紅茶、煎茶、ウーロン茶、番茶)、ココア、コーラ、エナジードリンクなどさまざまな飲料に含まれています。意外にも群を抜いているのが玉露で、コーヒーの二倍以上の量が含まれています。

カフェインの覚醒と興奮の作用を最初にして最大に利用したのが、八世紀の末、メソポタミア地方にあらわれたイスラーム神秘主義のスーフィーと呼ばれる僧侶たちです。スーフィーという名は、もともと羊の毛を指すスーフから来ていると言われ、羊毛の白いマントを身にまとい、荒野で修行に励んでいました。

スーフィーたちにとって夜は神と一体となる神聖な時間。眠らないため、興奮するため、食欲を断つためにコーヒーを飲み、厳しい修行を続けました。コーヒーが世界に広まっていく最初の一ページです。

興奮作用のほかにも、疲労回復、脂肪燃焼、利尿、消化促進、気管支拡張などの作用があることがわかっており、糖尿病予防や、がん、メタボリック症候群なども、コーヒーの効果の研究がすすめられています。

ただし他の食品成分と同じように、過剰な取りすぎはよくありません。妊娠中や胃が荒れている時などは、適量にすることも大切です。

ちなみに浅煎りの豆と深煎りの豆ではどちらがカフェインが多いか? 焙煎の時の熱でカフェインは一部気化するので、焼いている時間の長い深煎りの方がカフェインは少なくなります。しかし気化した分、深煎りの豆の方が軽く、浅煎りの豆の方が重くなるので、実際に豆を計量してコーヒーを淹れる時には、浅煎りでも深煎りでもカフェインの量は変わらないことになります。

 

コーヒーの長い歴史の中では、十七世紀のイギリス、コーヒーハウス通いに夢中になる男性たちに対し、自由な入店が許されなかった女性たちから、こんな抗議が起こったこともありました。

「コーヒーを飲用すると男性の性欲が著しく低下する。全人類絶滅の危機!」

コーヒーにハマった男性たちが妻との時間を怠ってしまったのでしょうか。今のところ人類絶滅はまぬがれているようです。  

 

参考

「コーヒーが廻り世界史が回る」臼井隆一郎

「コーヒー「こつ」の科学」石脇智広

「コーヒーについてぼくと詩が語ること」小山伸二

「コーヒー学検定《上級》金沢大学編」

-13-

chai