モーニング娘。になりたかった。
センターはゴマキに譲るとして、低身長を武器にミニモニ。の5人目のメンバーに選ばれるところまではイメージがついていた。
幼心にその夢を諦めたのは、いつだったのだろう。思いのほか身長が伸びてしまっていたあの日か、学芸会のヒロインオーディションに落ちたあの日か、はっきりと覚えてはいないけれど。
モーニング娘。に憧れた理由の一つである、デビュー曲の「モーニングコーヒー」。曲はもちろん、衣装があまりに魅力的だった。黒のタートルネックのセーターと、赤いタータンチェックのミニスカート。その組み合わせが好きすぎて、当時遊んでいたリカちゃん人形は大体同じ格好をしていた。
月日は流れ、堅実に真っ直ぐ歩いて来たと思った道をいざ振り返ると、山あり谷あり、お酒も誘惑もたくさんありな、うねうねに曲がった道ができていて笑ってしまう。飽き足らず二日酔いで便器を抱え込むような私を見て、もう酒は十分だろう、というお告げなのか、20代も後半にして、コーヒーの美味しさに気づいてしまった。
思い出されるのは、あの曲。晴れてコーヒーが飲めるようになった私の今の小さな夢は、時間が止まったような古い喫茶店で、お気に入りの洋服を着て、モーニングコーヒーを飲むことだ。
1人でも別にいいけれど、曲の中では「モーニングコーヒー飲もうよ、2人で」と歌っているから、そこは忠実にいこう。無理やり向かいに大事な人を座らせて、あつあつのブラックコーヒーを少しずつ飲みながら、なんてことない話をするのだ。あぁでも、せっかくなら朝ごはんも食べたいなぁ…なんてわざとらしく言いながら、焼き立てのピザトーストを頼もう。トマトの香りが食欲を唆るピザソースの上には、こんがりと焼き目がついたたっぷりのチーズ。サラミの旨味、たまねぎとピーマンの苦味が程良く効いていて、どこを食べても美味しくて、ぜいたく。
「コーヒーよりピザトーストが食べたいだけじゃないの?」と向かいから鋭いつっこみが飛んできそうだが、コーヒーとピザトーストと古い喫茶店…相性抜群なのだからしょうがない。
タートルネックのセーターと、タータンチェックのスカート。静かな店内には、ナイフとフォークがお皿に当たって金属音が響く。それすらも心地いいと思う、ゆったりとした時間が流れる。喫茶店の窓から見える出勤中のサラリーマンを横目に、少しの罪悪感と優越感を感じながら、小さく切り分けたトーストを澄ました顔で一口。
頭の中では、もし今、モーニング娘。になれるとしたらどうしようかなぁ…なんて、全く意味のないことを心配している。
BBC staff 渋川