Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。

カテゴリー: coffee column

  • title
    柱のねずみ
  • date
    2023年02月19日

SNS最盛期の昨今、ひっそりとお送りしているこのコラムを読んで下さっている皆さまは、「BBC歴」どれくらいでしょうか。

スタッフの名前も顔も全部わかる!なんていう常連の方から、実はまだ行ったことない…という方までいらっしゃると思います。

かくいう私も、実はまだまだ歴の浅い新米。15年以上続く長い歴史の中の、1ページのはしっこにもお邪魔できないくらいです。

初めて訪れたのは、2年程前の夏だったと思います。古びたビルの3階。初めて見るレベルの急な階段を前に、「なにこれ!?いま地震きたら私たち終わるよね?」と友人に話したのを覚えています。

一抹の不安を抱えながらたどり着いた先は、私が思う「かわいい」を詰め込んだような、ドンピシャのお店でした。

狭い店内に、コーヒー豆やクッキー、食器が並んでいて、思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまうような、端から端まで魅力が詰まった空間。奥にあるカフェスペースは大きな窓が開放的で、陽の光にあたってきらきらと輝くレモネードを見るだけで、うんと涼しくなったのを覚えています。

まさに、お気に入りを詰め込んだ屋根裏部屋。隣の柱にねずみの絵を見つけました。頭の中で想像する、こういうのが好きだな〜という漠然としたデザインを具現化したような場所に、ついに出会ってしまいました。あの時の高揚感は今でも忘れられません。

場所は「和田ビル」。その3階にある、コーヒーの匂いが染み付いたちいさなカフェでした。

    

その後、カフェスペースは現在の店舗へと移り、ご縁があり、今度はスタッフとして狭い階段を上がる日がやってきました。和田ビルほどではないですが、またも急な階段です。和田ビルにはその後姉妹店の雑貨屋が入りましたが、こちらもこの度カフェと同じ建物へ移ることに。和田ビルとBBC、ついにお別れです。

和田ビルで勤務していたスタッフや、足繁く通って下さっていたお客様。ファンの1人だった私の中にも、たくさんの思い出があります。

「出会ってしまった!」と衝撃を受けたあの日のときめきを忘れずに、私は今日も変わらず、狭くて急な階段を上がります。

今頃あの屋根裏部屋は、今までの活気が夢だったかのように、しーんと静まり返っているのでしょう。そう思うと寂しさがつんと来ますが、今にも飛び出してきそうだった柱のねずみだけは、やっと好き勝手できると喜んでいるのかもしれません。

staff 渋川

  • title
    カランコロンの音
  • date
    2023年02月13日

喫茶店の扉のカランコロンという音が鳴ってこの本は始まります。

キン・シオタニさんの「コーヒーと旅」

読み終わって喫茶店に行ってきたような気分になったのは、この人は本当に喫茶店が好きなんだろうなと感じたのと、その味わい方が自分と似ていたからかもしれないです。

キン・シオタニさんの喫茶店の好きなところがたくさん書いてあって、読んでいて楽しくなります。

そこで自分にとって、いい喫茶店てどんなところだろうというのを考えてみましたが、パッと浮かんだのが「朝起きて行きたくなるところ」でした。

誰とも約束もしない、前の日から計画もしない、起き抜けに行きたくなるところ。

スマホもカメラも必要ない。体ひとつでフラッと行けるところ。カランコロンと扉を開けて、そこの空気をたっぷり吸い込んで、その空気にはコーヒー(それからゆで卵やナポリタンやトースト)の香りが満ちていて。時間をかけてゆっくり目を覚していくところ。おばあちゃんになって朝にこんな時間を過ごせたらもう生きててよかったなって思うと思います。ああ書いているだけで幸せになってきてしまいました。なんだか銭湯に近い?それともおばあちゃんになってそんな場所を人に提供できたら、それもいいなぁ。すっかり妄想モードですね。

喫茶店やカフェに来る人にとって、コーヒーのうんちくはきっと必要ない。ただコーヒーが美味しくて、あなたの居場所だよっていう席がある。そこで自分の想像力を膨らませたり、必要ないものを削ぎ落としたり、心や体を整えたりして、また自分の手で扉を押して出ていく。

そういう場所を作るのには、お店の人はやっぱりいっぱいコーヒーの勉強をして、気づかれないように気遣いをして、裏できびきび動いているでしょう。

そういえばカランコロンの音は、私の大好きなゲゲゲの鬼太郎の下駄の音でもありました。

「コーヒーと旅」キン・シオタニ

(マドレーヌブックス)

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Taiami