Coffee Column
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。

カテゴリー: coffee column

  • title
    時とポニーと
  • date
    2022.03.16

まだ雪の残る晴れた温かい日、久しぶりに祖母の家に行きました。

と言っても祖母は三年前に亡くなり、祖父もその前に亡くなっているので誰もいません。叔父や叔母、母が丁寧に遺品の整理をしながら管理しています。二歳の娘を連れて行くと、誰かいると思ったのか元気よく入って行きましたが、人気がなく静まり返った家の中に、少し戸惑ってしまいました。

雪のロゴマークの製乳会社で働いていた祖父は、とても仕事が好きだったので、家のふとしたところに、まだゆかりのものが見られました。書斎のテーブルには「牛乳読本」という小冊子、キッチンには雪のマークのついたスプーン。少し気難しい感じの祖父でしたが、コーヒー&シガレットをお供に、俳句や仕事の話をする時の生き生きした様子は、子供ながらに見ていて嬉しくなりました。いつもテレビでスポーツ番組がかかっていて、コーヒーと煙の匂いが漂う居間で、祖父が定位置であるソファに腰掛ける姿は、寛ぎを絵に描いたようで嫌いじゃありませんでした。

祖母は料理好きで、習い事の後など遊びに行くと、いつも美味しい手料理を作ってくれました。唐揚げや豚カツ、ポテトサラダなど作ってくれましたが、中でも好きだったのがコーンスープです。ホワイトソースを伸ばした小麦粉のダマが浮かんでいて、モチモチとした食感がたまらなく、大きいダマが入っているとラッキー!でした。いつも笑顔で、食べることが好きで、ふくよかな体型の祖母の作る料理は、本当に美味しかった。少し大きくなってから一人で泊まりに行った時の、朝起きて階段を降りる途中に漂ってきた朝食の焼き魚の匂い、醤油味のおにぎり、今でも思い出せます。

あまり広くない台所には、少し大きすぎるテーブルがあり、食器棚の前の席に誰かが座っている時は、お腹を引っ込めてコップをとりにいかなければなりませんでした。甘いものが好きだった祖父に、お土産にケーキを買っていき、そのテーブルを囲んでみんなでよく食べました。大人はコーヒー、子供は牛乳。インスタントですがコーヒーを作るのを頼まれた時は、分量がよくわからず、入れるのに少し緊張しました。祖父のデミタスは小さく、ポットのお湯がジュボッと入るので、さらにヒヤヒヤしました。後片付けのお皿を洗う音、その時の母と祖母の他愛ない会話まで聞こえてきそうなほど、祖父母の家のことはすみずみまで思い出せます。でも、一歩家の中に入って見ると、そこはもう静かに時が止まっていました。

帰りの車で、なんとなく自分の日常を振り返ってみると、何もしなかったような一日でも、体は汚れるし、爪は伸びるし、家にほこりはたまるし、コーヒーは冷めるし、天気は変わるし、ものは劣化して成長もしていき、時は止まらずに、目に見えないくらい少しずつでも、流れていきます。

生きているっていうことは、止まらないっていうこと。止まらないっていうことは、静のものからみると実はすごいスピードで進んでいるっていうこと。

あの頃は興味がなかったコーヒーも、大人になって祖父母の家を思い出すと、温かな湯気を立てています。それぞれが生活の中でコーヒーを飲んでふうっと一息つく瞬間は、そんな止まらない流れを一時緩やかにしてくれたり、動き出す前の一呼吸のような役割をしてくれていたんじゃないでしょうか。

90年以上止まらずに、動き続けた祖父と祖母の「生」。一休みできた今は、祖父母にも家にも、ゆっくりとお疲れさまを言いたいと思います。

美空ひばりの歌のように、川の流れか何かに身を任せながら、今度は自分が生きている真っ最中なのだということをかみしめていたら、道路脇に突然なぞのポニーが現れ、ギョッとした田舎の帰り道です。

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chai

  • title
    Brown Books cafe 南三条店
  • date
    2022.03.08

絵葉書をもらった

むかしもらった

絵葉書はお店の一部だった

青い壁の一部だった

子どもが登るには斜めすぎる

老人が登るには狭くきしむ

転げ落ちないように

そっとそっと

一歩前進

一歩後退

一歩半進

おへその下をのぞいてみて

ギシギシ

ギイギイ

ギュウギュウ

登ってるんだ

ザラザラ

ガリガリ

ザンザザン

歩いてるんだ

キャラキャハ

ハハハハ

フフフフフ

座ってるんだ

ゴボゴボ

コポコポ

コポポポポ

注いでるんだ

カチャカチャ

ガッチャン

チュ-ルルル

飲んでるんだ

ギュルルン

ホカホカ

ペッタペタ

焼いてるんだ

カチッ

ボワッ

シャ-ッ

洗ってるんだ

窓辺に

チュンチュン

チチチ

パタパタパタ

飛んでくるんだ

そうして

サワサワ

ハラハラ

ポトリ

散ってくんだ

いつかこの音がなりやむまで

何度も

何度も

きっと思い出すんだ

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Mayumi

  • title
    カフェという場所ー17世紀イギリスの場合
  • date
    2022.03.03

今では街のいたるところにあるカフェや喫茶店。皆さんはどんな目的で行くことが多いでしょうか?

17世紀にヨーロッパに伝わったコーヒーは当初、貴族たちが楽しむなど一般的ではありませんでしたが、コーヒーハウスやカフェが登場すると市民階級にも広がり、身近な飲み物になっていきます。

今では紅茶のイメージが強いイギリスも、17世紀は実はコーヒーの国。ヨーロッパで最初にコーヒーハウスの流行を迎えたコーヒー先進国でした。市民たちは政治の話をしたり世間話をしたりする交流の場としてコーヒーハウスをフル活用。

それまで人々が集まる場といえば居酒屋、宿屋など酒を飲ませる店ばかりで、真面目に話していても最後はみんなで酔い潰れていましたが、コーヒーハウスの出現で、シラフどころが飲めば飲むほど頭がスッキリして語り合えるようになりました。一見さんでも常連でも、貧富の差も関係なく入店でき、入場料を先に払って、コーヒーはその都度カウンターにいるおかみさんに頼む方式が一般的。値段も安く、一度入ればさまざまな会話に参加可能で、コーヒー一杯でなんでも学べると評判でした。

その後、立地や店ごとに発展し、仲買人の商談の場になったり、海運交易の保険業が始まったり、コーヒーハウスで得た情報を元に新聞を作り、それをコーヒーハウスのカウンターに置いてもらい多くの読者を得るというスタイルも生まれました。

妻たちが「コーヒーは出生率を低下させる」と抗議のパンフレットを配るほど、男たちは経済、政治、ジャーナリズムの談義に酔い、入り浸り、熱く語り合いました。

今回は17世紀から18世紀のイギリスの「コーヒーハウス」を見てみました。

コーヒーハウス、カフェ、カフェー、喫茶店、珈琲店など、時代や国によっても呼ばれ方は様々。女子禁制だったり、会員制だったり、スタイルも様々。

でも、変わらないのはコーヒーはいつも主役ではなく、さりげないお供です。それでいて静にも動にも力を発揮する手助けをしてくれるという絶妙なポジションが、カフェという場で、コーヒーが求め続けられる理由なのではないかなと思います。

あなたにとってカフェとは?

さぁ明日はどんなカフェに行こう。

参考:「珈琲の世界史」丹部幸博

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chai

  • title
    屋根裏にコーヒーのにおいは流れる
  • date
    2022.02.18

きしむ階段を3階まで登ると、店内のところどころではらくがきねずみたちがお出迎え。

開店し、コーヒーのにおいが染みつくまでに半年がかかったといいます。

ここで過ごした十年間はどんなだったでしょうか?

まるで屋根裏部屋のような本棚に柱、ぼんやりとした照明、古い本や雑貨たち。ほっとしたり、いいアイディアが浮かんだり、友人との他愛ないおしゃべりに癒されたり。コーヒーのにおいと共に、ひとときをこの空間で過ごした人たちが、またそれぞれの日常に帰っていきました。

一から作る大変さ、続けていく大変さを喜びに変えてくれるパワーは、かけがえのない日常の中でふとこのお店を思い出し、足を運んでくださるお客様に他なりません。

どこでも、新しい場所でも、何度でも。

コーヒーへの愛と、夢を追う気持ちは一緒です。

次はどんなわくわくが待っているのかな?

店主とスタッフの汗と涙と鼻水を綺麗に拭ってから笑顔でお迎えします。新店舗開店まであと少し、どうぞ楽しみにお待ちください。

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chai

  • title
    4プラ
  • date
    2022.02.05
はじめて見た4プラはまぶしくキラキラ輝いて見えた。
中学生の頃、はじめて入った4プラで外国人にウインクされて、都会の刺激を受けた気がした。
自由市場でゴツいシルバーブレスレットを買って、部屋にしばらく飾って、黒くなっては磨き、結局一度も身に付けずに大人になってしまった。
エスカレーターで下るとコ-ヒ-屋さんが右手に見え、ニッコリした顔の小柄な女性がブルーマウンテンを量り売りしていた。
その様子があんまりおいしそうだから、
おもわず私も同じ豆を買ってしまった。
お客で行ったのは、その一回だけ。
もう少し大人になってから、その女性と一緒に働き、泣き笑い、母の様な上司にも出会い、公私にわたって付き合いをつづけている。
 
そして、また、出会った店。
平凡で当たり障りなく生きてきた私には、毎日が冒険で毎日が怖く毎日がばかみたいに楽しかった。
毎日がはじめて知る自分で
毎日がはじめて知る人達ばかりだった。
毎日が暑くて、熱かった。
 
挨拶するのも、弱音をはくのも、ふざけるのも、怒るのも、驚くのも、
4プラだった。
4プラはここにあった。
 
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mayumi