Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。
  • title
    ある日の嘘
  • date
    2023年12月20日

嘘をつく心理とはどんなものだろう。

脳は嘘をつく時忙しく働いていて、本当のことを言っている時はストレスを感じずに平穏なんだそうだ。

この前子供のおやつを勝手に食べた。チョコレートのパイだ。しかも子供が自分で作った、この世に一つしかない手作り。出来たてを半分子供が食べて、そのあとおばあちゃんの家のクリスマスパーティーに行ったから、ご馳走を食べて楽しさで忘れてしまうだろうと思った。夜に食べた。めちゃめちゃ美味しくて止まらなかった。完食だ。

そしたら朝になって言われた。「昨日のパイは?」

キター

「昨日おばあちゃんちに持ってってそのまま置いてきちゃった」

思ったよりすらすら嘘をついてしまった。

「ふーん、そっかぁ」

朝ごはんの用意をしながらもやもやもや…

食べちゃったーって言えばよかったな。気分悪いな。

そして朝ごはんを食べ終わる頃謝った。「ごめん嘘ついた」その言葉に食卓にいた子供達全員がピクッと反応した。「あんまり美味しくて止まらなくて夜食べちゃった」

作った子が「ふふん。なーんだ。いいよ」と言った。

みんなが家を出た後、片付けをしながら喫茶店で働いていた時のことを思い出した。

一人で店番をしている時、なるべく飲み物とデザートを持っていくタイミングが同じになるように、ギリギリのところまでコーヒーの準備をして、先にケーキのセットをして持っていくと言うやり方をしていた。

その日は「メープルのシフォンケーキ」と言う日替わりケーキで、シフォンケーキの上にたっぷりの生クリーム、そしてその上に線で書いたようなメープルがクネクネとかかっているものだった。

プロデューサー風のおじさんが女性と一緒にやってきて、ケーキセットを頼んだ。いつもの手順でセットをし、先にケーキ、次にコーヒーを持っていった。よし、順調に出せたなとそのまま立ち去ろうとすると、そのおじさんが「あ、ちょっと。このケーキだけどさ、これって上にかかってるのはちみつじゃない?」

頭の中が映画のようにすごい速さで巻き戻されていく。コーヒー、ドリップ、カップ、お湯を沸かす、ケーキの用意、、、はちみつ!!!

はちみつかけちゃったー!

でも私から出た言葉は「あ、いえ、それメープルです…」

「そうお?まぁいいやありがとー」

厨房に戻ってから半端ない後悔、ストレス。完全に保身のためについた嘘。その場で謝ればよかったバカバカバカ

と散々悶えた末、お会計に来たそのおじさんと女性に謝った。「あの、ケーキ、やっぱりはちみつかけてました…本当にスミマセン…」情けない。しかもお会計時という、作り直したケーキを新しく出すこともできない超バッドタイミング。

おじさんは「あーやっぱり?そうでしょ、僕いい舌してるでしょ」と笑いながら、ケーキ代はいらないと言っても払っていってくれた。

嘘を突き通すでもなく、中途半端に変なタイミングで打ち明ける。あれから十年以上経つのに変わってない。

ブルーハーツは歌っている。

チッポケなウソついた夜には

自分がとてもチッポケな奴

ドデカイウソをつきとおすなら

それは本当になる

あの日のプロデューサー風のおじさんも、子供も、告白したら半笑いしながらスルーするような反応だった。小さい嘘をついて、ついてしまったそのストレスから逃れるためだけに白状するという、ちっぽけな自分。

そしたらさらにその次の日の朝、子供がまた「俺の作ったパイは?」とデジャブのように問いかけてきた。

ん?と思いながら「食べちゃったよ。あんまり美味しかったから」というと「えーそうなの」とブー顔。「ごめんね、また一緒に作ろうよ」と言い、学校から帰ってきておやつに作った。

嘘つかないで答えられた方の、パラレルワールドに来たみたいだった。やっぱり百万倍すっきりした気持ちだった。

なぜ二回聞かれたのかは謎だ。

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Chihiro Taiami

  • title
    クリスマスの小説
  • date
    2023年12月15日

ショートショートという小説をご存知でしょうか。

小説の中でも特に短いお話で、最後にあっと驚くような意外な結末が用意されているものです。幼い頃から星新一が好きで、あっという間に読めて面白いその形態に魅了されました。

大学では卒業論文で星新一について書き、試験の当日うっかりその論文を持っていくのを忘れて先生たちに呆れられた思い出があります。星新一もびっくりの結末。

この星新一のお話に、クリスマスを題材にしたものがありました。争ってばかりいる人類を見かねた宇宙人が、地球を滅ぼしてしまおうと向かってくるのですが、着いてみると人々はニコニコ、幸せな空気に包まれていました。宇宙人たちは首を傾げながら帰っていきます。なんとその日はクリスマスー。

タイトルは忘れてしまったけど、短い言葉でまとめられた文章と、その話を読んで心に描いたイメージは今もはっきり残っています。

アメリカのO・ヘンリーという作家も、短編やショートショートの名手で、クリスマスの素敵な物語を残しています。

「賢者の贈り物」は、貧しい夫婦が相手へのクリスマスプレゼントを買うために、お互い自分の大切なものを売ってしまい、結果としてどちらも買ったプレゼントが無駄になってしまいます。この夫婦は愚かなのか賢者なのか?

結果はどうあれ、思い合った過程があれば、うまく行っても行かなくても二人で笑えるしハッピー!なクリスマスのお話。

NHKのEテレで「おはなしのくに」と言う番組があり、いろいろな役者さんが朗読と一人芝居をしています。この「賢者の贈り物」を安藤サクラさんがやっているのを観て、胸を打たれました。

寒い冬の夜には温かい小説とコーヒーを。

ふうっと一息つきながら、宇宙人も帰っていってしまうようなコーヒータイムを過ごせますように。

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Chihiro Taiami