Coffee Column
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。
  • title
    はじめての焙煎
  • date
    2023.06.20

ずっとやってみたかった。大坊珈琲さんの本を読んだ時から。

生豆とゴマ炒り器をネットで買った。焙煎って、手回しロースターとかちゃんとした機械が必要なのかと勝手にハードル高く思っていたけど、ゴマ炒り器とか、鍋でもできるみたい。とにかく生豆が色付いていくところを見たい。パチパチという、ハゼの音を聞いてみたい。

爆(は)ぜる、コーヒー豆の弾け飛ぶ音。

ある四月の晴れた日。北海道はまだ少し寒いのに、なぜ外でやってみようと思ったのか。台所でチャフが飛び散るのを警戒したというのも理由の一つだけど(チャフはコーヒー豆を焼いた時に出る薄皮のこと)なんとなく外でコーヒーの香りを感じたい、シチュエーション作りが8割かな?

庭にテーブルを出しコンロとザルとうちわと軍手を置いて、慌ただしく台所に戻って生豆を30g計量。ゴマ炒り器に入れ、バタバタと外へ。ドキドキしながら卓上コンロの火をつける。風が少しあり、しかも屋外で、コンロの青い炎はほとんど見えない。鍋をかざしてみる。

手網焙煎は、とにかく休まず鍋をゆすり続ける。と何かで読んだ。

やり始めてみると、本で読んだうろ覚えの知識はあっという間に風に飛んでいった。

まるで焙煎ごっこ。でもとっっっっても楽しい!!!

ゆすってみてるけど、ほんとに火ついてるかな?

あれ?なんか少し香ばしい匂いがしてきたぞ!

お向かいさんが出てきた。「あらー何してるのー?」

隣の家にもお客さんの車が停まった。

テーブルの横でベビーカーに乗せられ放置されていた10ヶ月の我が子もついに泣き出した。

「こんにちはー!コーヒー!焙煎してみてるん…」

そう言いかけた時、パチッ 

パチッ パチッ パチッ

あ、音がした!

もう興奮状態で、写真を撮ったり子供をあやしたり。ワタワタやっているうちに、また2ハゼのパチパチの音が始まった。豆はどんどん色が変わっていく。

こ、これは…さっきまでなんの豆だかわからなかったものがコーヒー豆の色になっていく…

感動に震えていると、あっという間に茶色を通り越して黒い焦げ色になっていった。慌ててザルにあけても、ザルの中でもどんどん色が変わっていく。うちわで仰いで。まだかろうじて茶色の生きてる豆もある。

茶色と黒の入り混じった焦げ焦げのコーヒー豆だけど、初めての焙煎完了に、町内中の人に「豆できたよー!」と叫びたい気分。

確か焙煎直後より数日置いた方がおいしい。何かに書いてあったな。

でもそんなこと今はいい。衝動の前に知識は必要なし!

ザルを持って家に入り、飲んでみる。初めての焼きたて挽きたてコーヒー。焦げの味はだいぶするけど、ちゃんとコーヒーだ。自分で焼いたコーヒー、おいしい!

やってみる、経験する。その一歩で世界は全然違う!!

四月の肌寒い日、焦げコーヒー豆は小さな一歩だったけど、「焙煎」が、イメージから立体になった瞬間だった。

-48-

Chihiro Taiami

  • title
    半径10メートル
  • date
    2023.06.09

おとなりの家に三匹の子猫たちがやってきたのは去年の秋だった。もうけっこう寒い季節。時には三匹並んで、時にはお互いの顔をぎゅうぎゅうにくっつけ窓のそばで押し合いへし合い場所取りをしてる姿は、あまりにも可愛いく、声をかけたくなる。

「おーいおはよー。何してんのー」たまに、かける。

猫たちがその家にきた時、娘を連れて初めて遊びに行った。娘は猫を追っかけ、私はコーヒーをいただいた。ぶんぶんぶるるん。

窓から見える、我が家とほんの少しだけ違う景色を不思議に心地良く感じながら。

コーヒーおいしいなぁ。柔らかい空気に包まれた空間で、神様か何かにこの場所に住んだことを感謝した。

「おとなりさんはコーヒーを淹れるのがうまい」

それにあらためて気がついたのは三日後くらい。ふと何かをしていた時に思い出した。いや、めちゃめちゃおいしかったぞ!!!と。

豆から挽いたコーヒーはとても香りが良かった。でもあのコーヒーの美味しさは…温度だ。最初に飲んだ時の口にあたった温度が絶妙だった。数日後にふと思い出すんだもの。そんなコーヒーを淹れられる?

あの時「おいしい」と言ったら、おとなりさんは「人が入れてくれた飲み物って水でもおいしく感じるのよ」と笑っていた。

子供が大きくなってから専門学校に通い、お菓子のお店を開いたというおとなりさん。

「何歳からだってできるのよ。私ができたんだから」と優しく笑ってくれる、人生の航路の先輩でもある。

それ以来、自分も沸騰したお湯を少し置いて、ちゃんと温度を調節してから淹れるようにした。

うん、やっぱりおいしい。

豆からひく。お湯の温度を少し下げる。ほんの少しの時間、ほんの少しの手間で全然違う。おいしいコーヒーの先生は、こんな日常の半径10メートル以内にいてくれた。

猫たちは、今日も変わらずムニムニとお互いの顔をくっつけて、網戸越しの外の世界を見つめている。君たちがそんないいかほりに包まれてムニムニしているのは、幸せなことなんだよ。

-47-

Chihiro Taiami

 

 

  • title
    BBCのコーヒー教室
  • date
    2023.05.28

5/21に開催した、「BBCのコーヒー教室」。

今回はコーヒーコラム番外編ということで、コーヒー教室の様子をお届けします!

事前にInstagramにて告知したところ、なんと一瞬で定員に!投稿をご覧下さった皆さま、本当にありがとうございます…!

今回は6名様をお迎えし、ペーパーを使ったハンドドリップの淹れ方をレクチャーしました☺︎

講師は、コーヒー好きが揃うBBCスタッフの中でも随一の「コーヒー博士」•三好が担当しました!ちなみに、BBCの長男…というよりお母さん的な存在で、雨の日は帰りに「ちゃんと傘持った!?」と聞いてくれます(笑)

まずはスタッフがお手本をお見せします!参加者の皆様の視線が集まる緊張の中…さすがは本番に強い男!美味しく淹れられたようです。

その後はお一人ずつ、ハンドドリップに挑戦!皆さん「緊張する〜!!」と仰ってましたが、本当にお上手でした!気付くと店内には、ふわ〜っとコーヒーの良い香りが…

スタッフが回りながら、皆さんのドリップを見守りつつアドバイス。お湯の太さ(量)や注ぐ速度で、がらっと味が変わります。難しいですよね〜うんうん…とカメラマンをしながら心の中で頷いていたところ、「いま写真撮ってるスタッフも、最初の頃はお湯の量太かったんですよ〜」と突然の暴露をくらってしまいました。すっかり油断していた…。

ハンドドリップに挑戦した後は、皆さんで飲み比べ。同じ豆でも、淹れる人によって全然味が変わるから面白いですよね。その後は当店の「レモンケーキ」と「クッキー」をお供に、淹れたてのコーヒーをお楽しみ頂きました☺︎

↑レモンケーキとクッキーはカフェで販売しています!お土産にも是非…!

おうちでのコーヒーの淹れ方など、ご質問にもお答えし気付けばあっという間の1時間。短い時間でしたが、コーヒー教室を通じて、コーヒーをもっと身近に感じて頂ければ嬉しいです!

私達スタッフも、とても楽しい時間を過ごすことが出来ました☺︎

次回の開催が決まりましたら、またInstagramでお知らせしますね。コーヒーがお好きな方、ハンドドリップに挑戦してみたい…という方はぜひ!

BBC staff 渋川

  • title
    挽きたての香りを楽しむなら…
  • date
    2023.05.20

コーヒーの香りを最大限に楽しむにはやはり焼き立て・挽きたての豆を使うのが一番でしょう。

しかしそんな私も何かとバタバタしがちな日常で、実はコーヒーは粉で買っています。

理由はコーヒーを飲むまでの手順がとにかく早くて簡単だから。毎日大好きなコーヒーを飲み続けたいから、手間よりも続けるために簡単な方を選んでいるという感じです。

粉で買うことのデメリットといえば、劣化が早いこと。コーヒーは生鮮食品だとよく言われますが、豆は挽いた瞬間から劣化が始まります。

焙煎したコーヒー豆に含まれていた二酸化炭素は、粉にすると最大で70%が失われるそうです。その二酸化炭素は、コーヒーの劣化要因である水分や酸素から守ってくれているのですが、粉にするとその効果は短時間でなくなってしまいます。その際、コーヒーの香りの成分も一緒に逃げていってしまいます。

数日間で飲み切るならそこまでの影響はありませんが、やはり香りを楽しみたい場合は挽きたてというのが最低限のハードルのようです。

豆で買うのが大事なことがわかったら、家で飲むときはそれをどうするのか?

もちろんご存知の方も多くいると思いますが、豆を挽くのにコーヒーミル(コーヒーグラインダー)というものを使うわけです。これでコーヒーを淹れる直前、お湯でも沸かしている間に挽く。

コーヒーミルには種類があって、豆を挽くところの構造からロールグラインダー、フラットカッター、コニカルカッターブレードグラインダーの四つに分けられます。

それぞれの個体によって差があるので、自分に合ったミルを選ぶ必要があります。

予算、使用頻度、粉砕速度、設置スペース、手入れのしやすさ、安定性。

私は往年のコーヒーラヴァーである祖父から譲り受けた、ダイヤル式のコーヒーミルを持っているのですが、優雅にキコキコ音と香りを楽しめていたのはぶっちゃけはるか昔。今は全く時間が持てず、最初に言った通り粉です。

専門店で使われていたかっこいい臼式のもの、小さな設置スペースに置けるフラットカッター、ちょっと値段はするけど微粉のつかない最新式のミル…。

何か今のスタイルに合ったいいミルが欲しくなってきたこの頃です。

参考 コーヒー「こつ」の化学 石脇智広

-46-

Chihiro Taiami

 

 

 

  • title
    庭師と木のコーヒー
  • date
    2023.04.21

一人暮らしで気楽にやっていた頃はいつもその友人の家にいた。

その子が結婚してアパートからマンションに引越し、旦那がいても、子供が産まれても、それは変わらなかった。結婚しても旧姓で呼ぶし、好きな時に出入りし、そこから仕事に行き、朝はねぐせ頭のまま、淹れてもらったコーヒーを飲んだ。面倒くさいから彼女のお母さんが地元から来て泊まった時に使ったという歯ブラシで歯磨きをした。

当時の私は「テミヤゲ」という習慣も知らず、ミスドを買って行ったら割り勘するもんだと思っていた。

赤ちゃんを寝かしつけに別室に行った彼女を見送り、借りたパジャマでくつろぎ龍が如くをやってストレス発散をしていた。

周りより少し早く結婚し子供を産んだ彼女は、「自分は別の国に行ったみたいだ」と言っていた。多分遊び盛りの友人たちと比べて少し寂しい気持ちの、悩みのようなものだったと思うのだけど、私はちんぷんかんぷんで、白いダイニングテーブルを挟んで、コーヒーを飲みながら「ふーん」としか思わなかったし言わなかったと思う。

時間は遡って出会いは高校だった。

わりとクセの強い私の父と、同じくらいクセの強い彼女の父が知り合いで、社交辞令のような感じで話しかけたのがきっかけ。思春期特有の病んでる感じとか、いくえみ綾の漫画や、古着屋とか、そう言うものを共有してダラダラ来たらこうなったという感じだ。

彼女といることで私は「さらけだす」という生き方を覚えた。別に彼女に見せてといわれたわけでもないし、そうしようと誘われたわけでもない。「飾らない」とか「自然体」ともちょっと違う。例えて言うならその辺にただ木が突っ立ってるのと同じ。だから、間違ってちゃんとしようとしてるところを見られると逆に恥ずかしい。木が、「私、木なんですよ」と主張しているようなものだ。

おかげで彼女は私の人生の節目節目に影響しまくっている。

人間関係もそうだし、仕事もそうだし、コーヒーを好きになったのもそう。節目節目で馬鹿みたいにさらけ出している時に、風が吹いて大事なものが私の中にひょいと入ってくる。

多分あの朝飲んでいたコーヒーのカップが白かったから、私は白いカップで飲むのが一番リラックスして美味しい。そして隣だったり、向かい合ったりしていた彼女の目が、いつも私を見透かして、受け入れてくれていたからだと思う。

宅飲みで悪さした次の日の朝は、みんなが帰った後しれっと隠していたつもりだったけど、コーヒーを淹れながら、やっぱり彼女は見透かしていた。

そんな感じで、見透かし受け入れながらも、それとなく私を剪定していく庭師のような力が、彼女にはあるのだろう。

前世では本当に、庭師と木の関係だったのかもしれない。

-45-

Taiami