ずっとやってみたかった。大坊珈琲さんの本を読んだ時から。
生豆とゴマ炒り器をネットで買った。焙煎って、手回しロースターとかちゃんとした機械が必要なのかと勝手にハードル高く思っていたけど、ゴマ炒り器とか、鍋でもできるみたい。とにかく生豆が色付いていくところを見たい。パチパチという、ハゼの音を聞いてみたい。
爆(は)ぜる、コーヒー豆の弾け飛ぶ音。
ある四月の晴れた日。北海道はまだ少し寒いのに、なぜ外でやってみようと思ったのか。台所でチャフが飛び散るのを警戒したというのも理由の一つだけど(チャフはコーヒー豆を焼いた時に出る薄皮のこと)なんとなく外でコーヒーの香りを感じたい、シチュエーション作りが8割かな?
庭にテーブルを出しコンロとザルとうちわと軍手を置いて、慌ただしく台所に戻って生豆を30g計量。ゴマ炒り器に入れ、バタバタと外へ。ドキドキしながら卓上コンロの火をつける。風が少しあり、しかも屋外で、コンロの青い炎はほとんど見えない。鍋をかざしてみる。
手網焙煎は、とにかく休まず鍋をゆすり続ける。と何かで読んだ。
やり始めてみると、本で読んだうろ覚えの知識はあっという間に風に飛んでいった。
まるで焙煎ごっこ。でもとっっっっても楽しい!!!
ゆすってみてるけど、ほんとに火ついてるかな?
あれ?なんか少し香ばしい匂いがしてきたぞ!
お向かいさんが出てきた。「あらー何してるのー?」
隣の家にもお客さんの車が停まった。
テーブルの横でベビーカーに乗せられ放置されていた10ヶ月の我が子もついに泣き出した。
「こんにちはー!コーヒー!焙煎してみてるん…」
そう言いかけた時、パチッ
パチッ パチッ パチッ
あ、音がした!
もう興奮状態で、写真を撮ったり子供をあやしたり。ワタワタやっているうちに、また2ハゼのパチパチの音が始まった。豆はどんどん色が変わっていく。
こ、これは…さっきまでなんの豆だかわからなかったものがコーヒー豆の色になっていく…
感動に震えていると、あっという間に茶色を通り越して黒い焦げ色になっていった。慌ててザルにあけても、ザルの中でもどんどん色が変わっていく。うちわで仰いで。まだかろうじて茶色の生きてる豆もある。
茶色と黒の入り混じった焦げ焦げのコーヒー豆だけど、初めての焙煎完了に、町内中の人に「豆できたよー!」と叫びたい気分。
確か焙煎直後より数日置いた方がおいしい。何かに書いてあったな。
でもそんなこと今はいい。衝動の前に知識は必要なし!
ザルを持って家に入り、飲んでみる。初めての焼きたて挽きたてコーヒー。焦げの味はだいぶするけど、ちゃんとコーヒーだ。自分で焼いたコーヒー、おいしい!
やってみる、経験する。その一歩で世界は全然違う!!
四月の肌寒い日、焦げコーヒー豆は小さな一歩だったけど、「焙煎」が、イメージから立体になった瞬間だった。
-48-
Chihiro Taiami
