面白くないわけがない。
昭和の人気作家、獅子文六が描く、男と女とコーヒーをめぐる小説「コーヒーと恋愛」。
深夜のスマホの中から、白いカップに入ったコーヒーのイラストが、表紙の真ん中で誘っています。
amazonのボタンををポチッと押して半月経ったけどなかなか手元に届かない。販売元に連絡をすると、追跡がないのでわからず届かないこともあるかも、返金するのでもし届いたらそのまま受け取ってくださいとのことでしばらく忘れていました。
さらに一ヶ月くらいして、郵便受けの下の折り畳んだ傘の隙間に、黒いビニール袋に包まれた四角いものがぽとりと落ちているのを発見。君はどんな旅路を辿ってきたんだい。
ともかくやっと会えました。
ーお茶の間の人気女優 坂井モエ子43歳はコーヒーを淹れさせればピカイチ。そのコーヒーが縁で演劇に情熱を注ぐベンちゃんと仲睦まじい生活が続くはずが、突然”生活革命”を宣言し若い女優の元へ去ってしまう。ー
(裏面 内容紹介より)
時代はまだテレビが新しかった時代。最初は入り込めるかなと思ったけど・・・これがまあ面白い。
こぽこぽ、まったり、カウンターでの思い出が、なんてふわっとしたコーヒー描写ではなく、豆の種類、当時のコーヒー事情、さらにネル、トルコ式、野外での山賊式(パーコレーターのようなもの?)などの淹れ方、インスタントの時代背景までかなり細かく描いてあるのです。
そして、適当だけど天性にコーヒーを淹れるのがうまい主人公モエ子。コーヒーの味に敏感なヒモの男。茶道ならぬ可否道を目指すコーヒーにのめり込んだ初老の男。それを取り巻く大学教授や落語家、芸術家のこれまたコーヒーにうるさいガヤたち。
日常に起こる些細な大事件に、力強く軽妙に進んでいく主人公やどこか憎めない登場人物たち。
可否道の集まりでうんちくを語る連中に、一人がこっそりインスタントで淹れ、うまいと言わせるところなんかとっても好きな場面です。
人生大切なのはユーモアとコーヒー。
そこそこ長いこの小説を読み終わり、面白さと達成感に浸っていると、あとがきで獅子文六が、好きで飲んでいたコーヒーを小説の題材にした(当時新聞小説として一日の休みもなく書いていた)ことで、にわか勉強のため有名コーヒー店やコーヒー問屋に通いコーヒーを飲みまくったこと、自宅でも濃いのを淹れて飲んでいたら胃の調子がおかしくなり、特に後半は病苦と戦い苦労したことが書いてありました。
そうでしょう。面白いだけでなくこれだけ詳しくコーヒーの内容に触れ、かつそれをいやらしくなく、コーヒーが好きな少々凝りすぎな人たちの日常や会話の中でさらりと描く。プロですね。
あとがきの最後の一行。
「それにしても、コーヒー小説だけは、もうコリた。」
本文通して全ページの中で一番笑いました。
文六先生お疲れ様でした。
みんながこの本を笑って、コーヒーを楽しみながら読むことが、きっと天国の作家へのなによりのブレイクになることでしょう。
「コーヒーと恋愛」獅子文六
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chai