「最近どうなの?」
待ちに待った、旧友との再会。お決まりの問いかけから始まり、20代女性のテンプレートのような会話で盛り上がる。あの子が結婚したらしいよとか、子どもは何歳までに欲しいとか、転職しようかな、あ~いつか専業主婦になりたい、え?絶対共働きのほうがいいよ、とかなんとか。
今日はお酒飲もうかな、と最近お気に入りのアイリッシュコーヒーとガトーショコラを頼んで、「私達も大人になったね」と笑い合う。
サッカー部のあの先輩がかっこいい、と目を輝かせながら何時間も盛り上がっていた学生時代から時は流れ、気づけば保険がどうだとか、投資がどうだとか。
テーブルには、アイリッシュコーヒーとガトーショコラ。
学生の頃、毎日飲んでいた紙パックのミルクティーは、いつからか飲まなくなった。成人したての頃、毎週のように行っていた2時間飲み放題980円のあの店は、今もあるんだろうか。
輝かしい青春時代の思い出を懐古しながら、グラスに口をつける。生クリームのなめらかな甘みと、深煎りのホットコーヒーの苦みが抜群の相性で、やっぱりこの組み合わせは間違いないよな、と心で頷く。
アイリッシュウィスキーの芳醇な香りが鼻から抜けると、どこか特別で重厚な非日常感を感じて、だらしない背筋が思わず伸びる。
しっとりとした食べ応えのある濃厚なガトーショコラを、少しずつフォークで取りながら、一口ずつ大事に、ゆっくりと味わう。コーヒーとチョコレートが合うのだから、アイリッシュコーヒーとガトーショコラが合わないわけがない。やっぱりこの組み合わせで大正解だった、と思わず自分を褒め称える。
よかった、私はちゃんと大人になれている。ちょっとだけ、今日は背筋が伸びている気もするし。
向かい合う友人が、慣れた所作で嗜んでいたワインをテーブルに置き、口を開く。
「ねえ、久々に今度、あの店行こうよ。」
ほらあの、2時間980円飲み放題の、うっすいレモンサワーの店。と続けた友人の顔は、先生に怒られていたあの頃と変わらない、いたずらっ子のような笑顔。得意げにワインを嗜む姿は、あの頃から見違えて上品だと思っていたのに。
そんな友人を見て、そういえば私は昔から猫背だったな、と伸ばしていた背筋から自然と力が抜ける。
本当は保険がどうとか投資がどうとか、なんにもわかっちゃいない。見よう見まねで大人のふりをしながら、中身は紙パックのミルクティー片手にサッカー部の先輩の話ではしゃいでいた、あの頃のまま。
「いいよ、飲み放題が1000円以上に値上げしてたら、行かないけどね。」
最後の一口を楽しみながら、またすぐ会えますように、と願う。大人になったね、なんて言っていたのに、最後は「お互い何も変わらないね」と笑い合う。
これからもきっと変わらない、ほんの少し背伸びしたい日の、アイリッシュコーヒーとガトーショコラ。
BBC staff 渋川