Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。

年: 2022年

  • title
    アポロ13号
  • date
    2022年09月05日

少しずつ、夜は涼しくなってきました。

今年の十五夜は9月10日、もうすぐですね。

ということで、月とコーヒーが出てくるアポロ13号のエピソードを一つ。

1970年4月13日、アメリカ合衆国、三度目の有人月飛行。

月面着陸を目指していたアポロ13号の酸素タンクに突然破裂が生じました。

事故によりミッション中止を余儀なくされたアポロ13号ですが、宇宙の旅は危機的事態。飛行士たちは深刻な電力と水不足に見舞われました。

少しでも長くエネルギーを保って無事地球に戻るため、電気は切られ、船内は氷点下近くに。

ヒューストンのすべてのスタッフとアポロ13号の乗組員は、可能な限りの手を打ちました。

乗組員が、極度の寒さと不安で戦う中、ヒューストンからは繰り返し、次のようなメッセージが送られたそうです。

「こちらヒューストン。がんばれ乗組員の諸君! 

君たちは今、熱いコーヒーへの道を歩いているのだ!」

結果、 数多くの危機的状況を乗り越え、乗組員全員が無事地球に帰ってくることができました。

全員が帰還できたこの対応の鮮やかさに、

「成功した失敗 (“successful failure”)」「栄光ある失敗」と称えられたそうです。

地球から遠く離れた宇宙の緊急事態という、おそらくこれ以上ない非日常。

コーヒーのある日常までもう少しだというメッセージは、乗組員たちの心を励ましたことでしょう。

コーヒーはいつでも平穏な日常の象徴ですね。

アポロが目指した月を眺めながら、今年の十五夜はお団子とコーヒーで過ごしてみてはいかがでしょうか?

参考:全日本コーヒー協会

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chai

  • title
    パイナップルとジャスミンのケーキと、白ワイン
  • date
    2022年08月24日

      

自他共に認める、単純な女である。

前世でどんな悪事を働いていたのか知らないが、お腹が減ると人の顔がハンバーガーに見える呪いにかかっているし、眠い時に話しかけられても、それっぽい相槌を打つ技術を磨きすぎた結果、実際は清々しいほどに何一つ聞いていない。

削られに削られたHPは、ご飯を食べるとみるみる回復し、眠るとさらに回復する。まるでRPGのプレイヤーのよう。さすがにドラゴンは倒せないが、パワーチャージを済ませた私は、村娘の困り事くらいなら解決できるかもしない。

     

単純な女の1日は、それはもう慌ただしいものである。

アイラインが上手く引けたらそれだけで良い日だし、ついでにまつ毛も綺麗に上がったら、まるで城下町に降り立ったお姫様かのような気分で街を闊歩する。新品のストッキングが伝線したらその1日は決まって何をやってもダメな日だし、見誤ってささくれをむきすぎた日なんて、もう最悪なのである。

単純故に、なかなかの頻度で人生史上最悪な1日を更新している気がするが、今日は一段とひどかった。朝ご飯の目玉焼きは焼きすぎてパサパサしていたし、いつになく蒸し暑いし、なぜか先月の電気代がめちゃくちゃ高かったし、欲しかったリップは狙っていた色だけが売り切れていた。あ、口内炎できてる。

    

何をやってもうまくいかない1日。人生のテーマは、自分の機嫌は自分で取る。こんな日は、好きなものだけに囲まれて、とことん自分を甘やかすしかない。

例えば、ホームアローンとコーラ。白いケーブルニットとタータンチェックのスカート、キンキンに冷えたビールと、坦々麺。

私を回復させる最強の組み合わせたちに、突然の新規参入である。

      

パイナップルとジャスミンのケーキと、白ワイン。

パイナップルとジャスミン。どうすればこんな、響きだけで心躍る組み合わせが思いつくのだろう。センスのない私には到底無理だ、と無意識に卑下してしまう。最悪な1日を過ごす今の私は、案の定ネガティブになっているし、周りの人の顔がハンバーガーに見えている。

パイナップルとジャスミンだけでも十分心躍る組み合わせなのだが、今日は何をやってもダメな1日。自分の機嫌を回復させるにはまだ足りないので、絶対に回復したい日の、白ワイン。

しっとりした硬めの生地はほんのすこし温まっていて、中にゴロゴロと入っているパイナップルの冷たさとの違いが楽しい。パイナップルの夏らしい爽やかさな甘みと、ジャスミンの高貴な香りが口いっぱいに広がる。

はちみつを上からかけて、まあるく添えられたレアチーズクリームを丁寧にケーキにのせて、一口。途端に贅沢な一品になる。誰にも渡さず、ワンホール抱えて食べられるくらい美味しいけれど、無くなってしまうのを惜しみながら、じっくりと上品に食べたいケーキ。

     

ケーキにはブラックのコーヒー。私の中で凝り固まっていた概念をいとも容易く覆したのが、パイナップルとジャスミンのケーキと、白ワイン。

背の高いワイングラスでワインを飲む、というだけで貴族になった気分を味わえるのは、単純故の特権なのか。いや、全員そうだと信じたい。タクシー移動がお決まりのロングヘアーが素敵な綺麗なお姉さんだって、アジェンダがあれでこれがエビデンスで、と難しい言葉を使いこなしているサラリーマンのおじさまだって、香り高いジャスミンと、フルーティーで爽やかな白ワインの前では、きっとどこか遠くの王国で大事に育てられているお姫様になってしまう…と、勝手に思っている。

史上最悪な1日、は撤回しよう。目玉焼きは固くても美味しかったし、異様に高かった電気代は節約すればいいし、売り切れていた色と似た色のリップを、5本くらい持っていた気がする。新しくできた口内炎は、3日も経てば治るだろう。

      

上機嫌なお姫様は、1LDKの殺風景な城に帰る。その足取りは、あまりにも軽い。

BBC staff 渋川