ある夜、古い洋書絵本が置いてある本棚に身を反らせて、ある絵本を探していたご婦人がいました。
背中から発している焦りにも似た熱気に、私は声をかけずにいられませんでした。
声を発しようと口を開きかけた瞬間、本をむさぼる様に点検していた姿勢を、こちらに向いて 『古い絵本でね、切り株の下に洞穴みたいな所があって、リスとか動物が冬の間そこで暮らすのよ。絵がすごく良くて、カラフルじゃないの。
小さい頃に読んでとっておいたんだけど、いつの間にか無くしちゃって。
ここならありそうな気がして、、、きっとイギリスの絵本だと思うんだけど。』
大切なモノを探すことに全神経を集中させている人の姿でした。
『わかりました』でもなく 『わかりません』でもなく 思いあたる絵本を全部見てもらいました。 見るごとにぼんやりとした想い出がよぎるのか、1冊、1冊に、 『これは色がありすぎるのね』 『この絵のタッチじゃなく細い線なの』 『もっと古い時代ね』 『動物以外に人間が出てたかしらね』 と、ぼんやりと自問しているかの様に点検してくれていました。が、いよいよ私もネットに頼ることに決めました。
ここまでで、すでにお店の本棚から見つかるのは、私の記憶にある絵本のラインナップからは絶望的でした。 ですが、 人の記憶というものはあてにならないモノです。
人のイメージというものも人それぞれ。 過去に私がイメージした本とお客様が言っていた本があまりにも違ったことも数知れず。 そうです。
自分を疑って、便利な機能に頼りました。 手がかりが増えれば、、いえ、、違います。その時点で私たちは見つける事に懸命になっていた訳ではなく、ご婦人の懐かしい想い出について話り、慈しむ事が出来る糸口が見つかればいいのにという気持ちでした。 この方はいい本、絵を知っている。それならば、私にも教えて欲しい。
そんな打算もあったかもしれません。
私の趣味は本です。 お休みの日には図書館か書店に通うのが日課です。
やめられないんです。苦笑。 ですが、まだまだ本に詳しい訳ではなくいつも勉強中です。 いつも店主に明日の休み何するのかと聞かれては、決まった答えしかないことに毎週顔をしかめ、笑われています。笑。
この夜、出会ったご婦人は結局、福音館書店の昔の絵本を数冊買われていかれました。 お買い物が終わった後に、ご主人が来られてそっと、声をかけていました。
『気にいったものは、見つかったかい』と。 ご主人はご婦人だけの懐かしむ時間を邪魔しない様に、適度な距離で待っていたんだと知りました。素敵な関係ですよね。
たまにはこんな夜もいいかもしれません。
↑これは今1番私が好きな絵本です☆ 4pla店 長滝