うちにはサンちゃんという名まえの金魚がいる。
対面キッチンの細い棚の上、涼しげに金魚鉢の中を泳いでいる。ちょっと不安定な場所のような気もするが、届くところに置くとまだ小さな子どもが手を突っ込むし、日当たりもちょうどよいのでここにいてもらっている。
帰ってきて手を洗うとき、スイスイと泳ぐサンちゃんは必ず視界に入ってくる。お祭りの金魚すくいで取れずに、おじさんがおまけしてくれたサンちゃん。金魚鉢が小さくなってきたな。
この金魚鉢は先代のコメちゃんという金魚の時に買ったものだけど、コメは家に来て二ヶ月ほどで羽が生えて旅立っていってしまった。
サンちゃんは強く、多少の過酷な環境でも生きている。私がインフルエンザになったとき、うがいをしようと思ったら急に咳が出て、ゴブォッと金魚鉢にあらん限りの唾を飛ばしてしまった。しかも辛いから、サンちゃんごめんと思いながらも、回復するまでそのままだった。それでもなんともないわというふうに泳いでいた(すごい嫌だったかもしれない)
まだ一歳の末っ子は、サンちゃんを見るのが好きで、ダイニングテーブルの上によじ登り顔を近づけすぎて、金魚鉢ごとシンクの中におっことした。サンちゃんピクピク…九死に一生を得た。排水溝の金網まで流れなくて本当によかった。
夏にじいちゃんが釣ってきた数十匹のサバを、目の前でバッタバッタとさばいていく様は、目を覆いたくなったかもしれない。小麦粉つけて、卵つけて、パン粉つけて…ああっあんな姿にっ。フライは最高だったなー。
サンちゃんよりはるかにでかいホッケも、うちではよく出てくるが、魚焼きコンロに入れられ、出てきたころにはじゅーじゅーと油の乗ったいい匂い。
金魚鉢を洗うときは、水を張ったボウルに、ラーメンのレンゲで一時移し替える。台所に住んでいるが故、食われるわけではないのに、食器と共存する暮らしぶりだ。
私が気分よくコーヒーを淹れるのもサンちゃんの目の前だ。
ちょろちょろ、ふわぁ〜ん、ぽたたたた…
このいい音と香りを、最初にサンちゃんと共有する。
うちにいてたいしたおかまいもできないし、色々ご迷惑もおかけしているが、これだけはちょっとおもしろい環境だと思ってはくれないだろうか。
サンちゃんは今日も、日のひかりに照らされた金魚鉢の中を、大きくなったり小さくなったりしながらキラキラ泳いでいる。
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Chihiro Taiami