Coffee Column
コーヒーコラム
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。
  • title
    ある母ちゃんの珈琲記 vol.1 Kids in the park
  • date
    2021年07月14日

夕方の公園に響く子供達の声。

虫取りに熱中し、クマバチを虫カゴの中で溺れさせている子。泥水をぶちこみ、まだ死なないと言って、ゴミ箱から拾ってきたペットボトルに移し、フタをして遊具に叩きつける。

ポテトチップスの空き袋に水をためて何やらやっている子もいる。覗いてみると、たくさんアリを入れ、やはり溺れさせている。

バッタの足をもいでアリに食わせる子もいる。

以前、父に言われた言葉を思い出す。「子供が虫を殺してても途中でやめさせないこと」

確か「やってやって、自分で可哀想だなって気付かないと、ほんとの気持ちがわからないから」という理由だった気がする。それが合っているのかはわからないけど、今のところ口出しはしていない。

私は見てて可哀想だなと思う。でも、蚊とかゴキブリは殺していいのに、ハチやアリはダメだという理由も分からない。それに、なぜかイモムシとかかたつむりは絶対に殺さないで可愛がっている。

ともかく、水と虫は、子供たちの顔をいつも輝かせる。


次は鬼ごっこ。幼稚園児ばかりオニにして、近づくとずるい顔してタイムをする小学生。幼稚園児は必死でお兄ちゃんとその友達を追いかける。悔しそうに、でも足は小学生より遅いから、ただただいっしょうけんめい。

ブルーハーツの歌が耳に流れてくるような気がする。

答えはきっと奥の方 心のずっと奥の方


そのうちにあまりにも捕まえられないので俺にタッチしろ、変わってやる!という子が現れる。

息子の友達が走ってきて、私のリュックの中を、何かお菓子ないのとまさぐる。中から缶を見つけ、

「ジュースだ!飲みたい!」

「ブラックコーヒーだよ。苦いけどいい?」

「いい、いい!」

他の子も駆けてきて、

「俺もコーヒー飲める!家で青い缶のやつ飲んでる」

などと言いみんなで缶を開けキャッキャと回し始める。

最初に飲んだ子はブェ〜〜〜〜と水飲み場に吐きに行った。

2番目に飲んだ子は、青い缶を家で飲んでるという強者、腕にイモムシを這わせて余裕の飲みっぷり。

3番目に飲んだ息子は、一口飲んでは拾ったプリングルスの容器に吐き、飲んでは吐き、とうがいのような謎の動作を繰り返していた。


今度はみんなで走って木登りに行った。幼稚園児も後ろから必死について行く。木の上の葉っぱに虫コブを見つけて「きもちわりー!」と興奮している。


こんなに眩しいコーヒーと、時間にはこの先出会えないだろうなと思った。大人になったって、さっきみんなが水飲み場を噴射させたようなキラキラは消えないよ。

全身で笑って、全身で泣いて、力いっぱいこの時間を過ごしてほしい。

帰り道、幼稚園児はもっと遊びたかったー、といった。

鬼ごっこでタイムばかりしてた小学生は、小さな女の子の三輪車を押してくれた。

私は、早く帰って飲み損ねたコーヒーを飲みたいと思っていた。

家では、生きてる虫も死んでる虫も色々入った虫カゴが、帰りを待っているね。

みんなが大人になってほんとうにコーヒーを飲む時、今日のこの光景を見せてあげたい。

chai

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  • title
    月とコーヒーとムフフ
  • date
    2021年07月01日

吉田篤弘さんの「月とコーヒー」という本をご紹介します。
吉田さんは吉田浩美さんと、クラフト・エヴィング商會(しょうかい)という名前で執筆とデザインの仕事をされていて、お二人とも本がとても好きな方です。
と言っても本人から聞いたわけじゃないんですが、どの作品をみても、文章はもちろん、そのデザインや字の配置までも、本への愛情を感じます。

ものがたりの始まりの部分のような、読む人に続きをゆだねられているような短いお話が24篇。どのお話も食べ物やコーヒーが出てきます。

それもナポリタンやサンドイッチ、クリーム・シチューにドーナツなど、食欲をそそられるだけでなく、喫茶店が恋しくなってしまうものばかり。そして脇役には青いインクの万年筆や、コーヒーの染みのついたノートなど。

これは吉田さんが本に加え、喫茶店で過ごす時間がお好きなんだろうと勝手に憶測してみる。きっとこの人は自分が好きなものを雲の中から掴み取り、ムフフと味わいながら形にするのが得意なむっつり系。

すみません、これも憶測です。


あとがきには、

ーおそらく、この星で生きていくために必要なのは「月とコーヒー」ではなく「太陽とパン」の方なのでしょうが、この世から月とコーヒーがなくなってしまったら、なんと味気なくつまらないことでしょう。

とあります。

それは人によってタバコだったりビールだったり、音楽やマンガや小説だったりするかもしれない。ただちょっとムフフっとできるものがあるだけで、自分をリセットしたり、整えたりしながら、日々を続けていけるのではないでしょうか。

一日の終わりの寝しなに読むイメージで書かれたそうです。

傍らにコーヒーを置いて、絵本の中の犬とカエルのように、本を開いて2秒で寝落ちできたら最高です。

「月とコーヒー」吉田篤弘・著
徳間書店

chai

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