Coffee Column
ブラウンブックスカフェのコーヒーにまつわる日々のコラム

Yoko Hoshikawa
ブラウンブックスカフェ/ブラウンブックスヴィンテージ店主。
コーヒーとHip Hop を愛する2児の母。札幌在住。
Chihiro Taiami
妖怪が大好きな円山店時代の元スタッフ。
4人の子供の育児の合間に当店のコラムを担当している。道南在住。

カテゴリー: coffee column

  • title
    庭師と木のコーヒー
  • date
    2023.04.21

一人暮らしで気楽にやっていた頃はいつもその友人の家にいた。

その子が結婚してアパートからマンションに引越し、旦那がいても、子供が産まれても、それは変わらなかった。結婚しても旧姓で呼ぶし、好きな時に出入りし、そこから仕事に行き、朝はねぐせ頭のまま、淹れてもらったコーヒーを飲んだ。面倒くさいから彼女のお母さんが地元から来て泊まった時に使ったという歯ブラシで歯磨きをした。

当時の私は「テミヤゲ」という習慣も知らず、ミスドを買って行ったら割り勘するもんだと思っていた。

赤ちゃんを寝かしつけに別室に行った彼女を見送り、借りたパジャマでくつろぎ龍が如くをやってストレス発散をしていた。

周りより少し早く結婚し子供を産んだ彼女は、「自分は別の国に行ったみたいだ」と言っていた。多分遊び盛りの友人たちと比べて少し寂しい気持ちの、悩みのようなものだったと思うのだけど、私はちんぷんかんぷんで、白いダイニングテーブルを挟んで、コーヒーを飲みながら「ふーん」としか思わなかったし言わなかったと思う。

時間は遡って出会いは高校だった。

わりとクセの強い私の父と、同じくらいクセの強い彼女の父が知り合いで、社交辞令のような感じで話しかけたのがきっかけ。思春期特有の病んでる感じとか、いくえみ綾の漫画や、古着屋とか、そう言うものを共有してダラダラ来たらこうなったという感じだ。

彼女といることで私は「さらけだす」という生き方を覚えた。別に彼女に見せてといわれたわけでもないし、そうしようと誘われたわけでもない。「飾らない」とか「自然体」ともちょっと違う。例えて言うならその辺にただ木が突っ立ってるのと同じ。だから、間違ってちゃんとしようとしてるところを見られると逆に恥ずかしい。木が、「私、木なんですよ」と主張しているようなものだ。

おかげで彼女は私の人生の節目節目に影響しまくっている。

人間関係もそうだし、仕事もそうだし、コーヒーを好きになったのもそう。節目節目で馬鹿みたいにさらけ出している時に、風が吹いて大事なものが私の中にひょいと入ってくる。

多分あの朝飲んでいたコーヒーのカップが白かったから、私は白いカップで飲むのが一番リラックスして美味しい。そして隣だったり、向かい合ったりしていた彼女の目が、いつも私を見透かして、受け入れてくれていたからだと思う。

宅飲みで悪さした次の日の朝は、みんなが帰った後しれっと隠していたつもりだったけど、コーヒーを淹れながら、やっぱり彼女は見透かしていた。

そんな感じで、見透かし受け入れながらも、それとなく私を剪定していく庭師のような力が、彼女にはあるのだろう。

前世では本当に、庭師と木の関係だったのかもしれない。

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Taiami

  • title
    いつのことだか
  • date
    2023.03.20

「いつのことだか おもいだしてごらん

あんなこと こんなこと あったでしょう」

こんな歌を歌って息子が幼稚園を卒園しました。

先生と園児の掛け合いの歌詞に、親も、また先生も涙涙。通い始めた頃にはぶかぶかだった園児服は体にぴったりになり、卒園証書を片手に壇上から戻ってくる子供たちの笑顔は、そんな感動や寂しさよりも希望が似合う一日となりました。

子どもは、大人が教えなきゃってするよりも、もうすでに大人たちの日常の姿をよく見ている。教えなきゃ、じゃなくて見られている、この生き様を笑。そして真似する。

思い出すのは、子どもたちと外出して帰宅するとテーブルの上にポツンと置いてあった、ホットの缶コーヒー。夫が仕事の合間に置いていったもののようでしたが、見つけた子供たちと開けちゃおっか!と盛り上がり、みんなで一口ずつ回し飲み。ミルクと砂糖の入った生温かいコーヒーは、なぜだかすんごく美味しくて、あっという間に何周もして空っぽになりました。

「もっと飲みたーい!」という子どもたちと「また大きくなったら一緒に飲もう」と約束したあの日。

最近息子がまた「コーヒーを飲んでみたい」と言うので、カフェインレスをほんのすこーし、それからお砂糖とミルクをたっぷり入れて作りました。結構真顔でうまいという笑。

こうして少しずつ、いや、すごい早さで大きくなるんだなぁ。

コーヒー淹れてあげる!とインスタントコーヒーの粉をカップの傍にめちゃめちゃにこぼしていたり、ペーパーフィルターをドリッパーにセットしてくれたり、コーヒーメーカーのボタンを押したがったり。

お湯はまだ危ないと注意する。

でも本当はなんでもやってみたいことはやらせてみたい。

なるべく手は出さないけど目は離せない…

その間のところが、もとは適当な私にとっては神経を使うところです。

笑いながら、怒りながら、学びながら、一緒に一日一日過ごしていく。いつかこんな日が

いつのことだか おもいだしてごらん って

遠くキラキラした粒になって、みえる時が来るのだろうか

そんなことはお構いなしで、子どもたちはもちろんいいのだけど。

「おおきくなったらおかあさんといっしょにコーヒーのむ!」

とっても嬉しい約束、楽しみにしているね。

その頃はヒゲ面のおっさんになってても。

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Taiami

  • title
    柱のねずみ
  • date
    2023.02.19

SNS最盛期の昨今、ひっそりとお送りしているこのコラムを読んで下さっている皆さまは、「BBC歴」どれくらいでしょうか。

スタッフの名前も顔も全部わかる!なんていう常連の方から、実はまだ行ったことない…という方までいらっしゃると思います。

かくいう私も、実はまだまだ歴の浅い新米。15年以上続く長い歴史の中の、1ページのはしっこにもお邪魔できないくらいです。

初めて訪れたのは、2年程前の夏だったと思います。古びたビルの3階。初めて見るレベルの急な階段を前に、「なにこれ!?いま地震きたら私たち終わるよね?」と友人に話したのを覚えています。

一抹の不安を抱えながらたどり着いた先は、私が思う「かわいい」を詰め込んだような、ドンピシャのお店でした。

狭い店内に、コーヒー豆やクッキー、食器が並んでいて、思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまうような、端から端まで魅力が詰まった空間。奥にあるカフェスペースは大きな窓が開放的で、陽の光にあたってきらきらと輝くレモネードを見るだけで、うんと涼しくなったのを覚えています。

まさに、お気に入りを詰め込んだ屋根裏部屋。隣の柱にねずみの絵を見つけました。頭の中で想像する、こういうのが好きだな〜という漠然としたデザインを具現化したような場所に、ついに出会ってしまいました。あの時の高揚感は今でも忘れられません。

場所は「和田ビル」。その3階にある、コーヒーの匂いが染み付いたちいさなカフェでした。

    

その後、カフェスペースは現在の店舗へと移り、ご縁があり、今度はスタッフとして狭い階段を上がる日がやってきました。和田ビルほどではないですが、またも急な階段です。和田ビルにはその後姉妹店の雑貨屋が入りましたが、こちらもこの度カフェと同じ建物へ移ることに。和田ビルとBBC、ついにお別れです。

和田ビルで勤務していたスタッフや、足繁く通って下さっていたお客様。ファンの1人だった私の中にも、たくさんの思い出があります。

「出会ってしまった!」と衝撃を受けたあの日のときめきを忘れずに、私は今日も変わらず、狭くて急な階段を上がります。

今頃あの屋根裏部屋は、今までの活気が夢だったかのように、しーんと静まり返っているのでしょう。そう思うと寂しさがつんと来ますが、今にも飛び出してきそうだった柱のねずみだけは、やっと好き勝手できると喜んでいるのかもしれません。

staff 渋川

  • title
    カランコロンの音
  • date
    2023.02.13

喫茶店の扉のカランコロンという音が鳴ってこの本は始まります。

キン・シオタニさんの「コーヒーと旅」

読み終わって喫茶店に行ってきたような気分になったのは、この人は本当に喫茶店が好きなんだろうなと感じたのと、その味わい方が自分と似ていたからかもしれないです。

キン・シオタニさんの喫茶店の好きなところがたくさん書いてあって、読んでいて楽しくなります。

そこで自分にとって、いい喫茶店てどんなところだろうというのを考えてみましたが、パッと浮かんだのが「朝起きて行きたくなるところ」でした。

誰とも約束もしない、前の日から計画もしない、起き抜けに行きたくなるところ。

スマホもカメラも必要ない。体ひとつでフラッと行けるところ。カランコロンと扉を開けて、そこの空気をたっぷり吸い込んで、その空気にはコーヒー(それからゆで卵やナポリタンやトースト)の香りが満ちていて。時間をかけてゆっくり目を覚していくところ。おばあちゃんになって朝にこんな時間を過ごせたらもう生きててよかったなって思うと思います。ああ書いているだけで幸せになってきてしまいました。なんだか銭湯に近い?それともおばあちゃんになってそんな場所を人に提供できたら、それもいいなぁ。すっかり妄想モードですね。

喫茶店やカフェに来る人にとって、コーヒーのうんちくはきっと必要ない。ただコーヒーが美味しくて、あなたの居場所だよっていう席がある。そこで自分の想像力を膨らませたり、必要ないものを削ぎ落としたり、心や体を整えたりして、また自分の手で扉を押して出ていく。

そういう場所を作るのには、お店の人はやっぱりいっぱいコーヒーの勉強をして、気づかれないように気遣いをして、裏できびきび動いているでしょう。

そういえばカランコロンの音は、私の大好きなゲゲゲの鬼太郎の下駄の音でもありました。

「コーヒーと旅」キン・シオタニ

(マドレーヌブックス)

-43-

Taiami

  • title
    本のタイトル
  • date
    2023.01.17

お正月が明けていつも通っている皮膚科に行ったら、普段は見かけない、帰省中と思われる若者が待合室に何人かいました。

自分も数年前まで長距離バスに乗って帰ってきてたなぁなんて思ったら時すでに十数年前でした。

私の隣にそんな若者のひとり、今どきのメイクと服装の女子が座っていたのですが、手の中には白いきれいな装丁のわりと分厚い単行本。はい、勝手にロックオン。なんてタイトル?誰の本?鼻の下伸ばして気づかれないように、ギリギリの顔の角度を保って見ましたが結局見えませんでした。

本を読んでいる人の姿はいいなぁ。若者の姿はなおさらいいなぁ。

話しかけようか迷う。四十間近の度胸なし!結局声をかけられないまま彼女は診察室に呼ばれていきました。

もう一度生まれ変わって、生まれる前に神さまにやりたいことリストを提出できるとしたら、十代で本棚で手と手が触れ合う出会いをしたいと書きます。

なんの本だったのかいまだに気になり続けてます。

もしまた同じような場面に出会えたら、

「聞けやしない、聞けやしないよ・・・」ってちびまる子ちゃんの野口さんみたいにつぶやいていないで、本のタイトルくらいモジモジしないで聞こーっと!

いや、むしろ野口さんは普通にズバッと聞きますね。

今年の目標です。二〇二三年もどうぞよろしくお願いします。

-42-

Taiami