もう二年くらい前の話。
焙煎がどんなものか知りたくて、ネットでお試し用の五種類のコーヒー生豆を買った。届いた豆は、灰色と薄緑色が混ざったような色で、うっすら麻袋の匂いがした。
銀杏を炒る手網にほんの五十グラムくらいの豆を入れ、届いた豆についていた焙煎の仕方の紙を見ながら、ガスコンロの上で焼いてみた。
だんだん匂いが変わってきて、「ハゼ」という音を初めて聞いて感動しているうちに、焦げ臭くなり、気づいたらあっという間に真っ黒に焦げていた。
生豆を焙煎すると化学反応が起こる。その過程で、色、苦味、酸味、香りが作られていく。
ガスが豆の内部の圧力を上げ、豆を膨らませていくのだけど、やがて圧力の上昇に耐えられなくなると、豆の細胞が音を立てて壊れ、弾ける。
ぱち、
これが一度目のハゼ。
さらに膨張した豆は、細胞が壊され、どんどん音の数も増えていく。
ぱち、ぱち、ぱちぱちぱちぱち!
これが二ハゼ、三ハゼ。
焙煎が進むたびに香りも変化する。火からおろし冷めるまで、豆は変化していく。
初めての焙煎はおろすタイミングも、おろした後の火の進み具合もわからずに、焼けたコーヒー豆の薄皮をあたり一面に散らして、あたふたと終わった。
そしてしばらく、お試し用の五種類の生豆は、仲良く棚の中で眠ることになった。
今年、なんの気なしに再び棚から出した時、すでに賞味期限は切れていたが、また生豆が呼んでいる様で焙煎してみることにした。
今度は、続けたこともあり、だんだん豆の色や匂いでこれくらいかな、という自分なりの基準ができてきた。小さい手網で、一日に何度もやっているともっとわかってきた。体感したり、体験するっていうのは、一番楽しい。
その基準が、正しいとか合っているかとかはわからないけど、なんでも自分と何かが呼応するタイミングがあって、生豆のように、ある日突然どこかで弾ける時を待っている様な気がする。
参考:コーヒー「こつ」の科学 石脇智広(柴田書店)
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Chihiro Taiami